5年シードで飾った1年半ぶりのツアー通算5勝目は、一も二もなく妻にささげる復活Vだ。
「目の前で優勝できたことが一番嬉しいな、と思います」。
劇的勝利に、一緒に泣いた。
1打差の3位から出て、堀川らと歴史に残る名勝負を演じた。
2番でチップインイーグル。
6、9番のバーディで首位を追い、15番で隣の17番に曲げたがスーパーセーブ。
2打差で入った上りの3ホールは「神頼みしかなかった」と、16番でティショットをピン1メートルに絡めて1差に迫り、6メートルを沈めた本戦最後の18番で堀川に追いつくと、プレーオフ1ホール目に178ヤードのバンカーから奥2メートルにつけ、“連続バーディ”で決着した。
先月の「日本プロ」でも最年少3冠に挑み、初日2位も最後13位に終わっていた。
「今回は、絶対に何が何でも勝ちたい、という気持ちでどのショットもガス欠するくらいの勢いで、集中していたのが勝てた要因です」。
2022年の「日本オープン」で、史上初のアマ2勝を挙げ、23年の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」でプロ初勝利からの2勝目を飾り、JGTOの主催試合で史上最年少の日本タイトル3冠を達成した。
「復帰5戦目で、ツアー選手権に勝てると思っていない。まだ夢かな、と思うくらい、最後のパットは記憶がない。緊張の極限でした」。
昨年11月に結婚し「早くうれし涙を流させたい」と、早期の新婚Vを約束し、葵さんに全試合の帯同を頼んだのに、今年2月の米二部ツアーの4戦目に途中棄権。
泣きながら戦線離脱し、無念の帰国をした。
いくつも病院をはしごし、療養につとめても、左背中部の刺しこむ痛みはおさまらず、地元兵庫県加東市の「佐保神社」で神頼みもした。
1か月過ぎてもクラブが握れず、物心ついたときからゴルフを始めて以来の最大ブランクに「ゴルフ人生どうなるのか」。
絶望する蟬川を支え続けたのが葵さんで、6軒目にかけこんだ兵庫医科大学で、やっと肋骨の疲労骨折が発覚。
痛みの原因が解明し、治療の先生にも恵まれると、その後の回復は葵さんも驚くほど順調に進み、再びクラブを振れるようになると、「ケガする前よりゴルフが良くなっている」と、笑い合えるまでになっていた。
葵さんから見た蟬川は、「こんなに素直でまっすぐな人はみたことないな、というくらい超素直」。
愛情表現もまっすぐだ。
「結婚後は勝てなくて、予選落ちしている姿とか、苦しんでいる姿しか見せていない。今週、2日目を終えて、チャンスの位置にいたので、妻にも優勝を届けたいな、と思った。ここまで支えて来てもらったからこその優勝です」。
ケガ後は、毎朝オレンジジュースとビタミン剤を日課にし、肉や寿司一択をやめ、サラダやみそ汁がつく定食をオーダー。葵さんのアドバイスでケガ以前より疲労感も明らかに減った。
転戦中は運転も、洗濯も、ウェアのチョイスも葵さんに任せきり。
「最終日はほぼ黄色を選ぶ」と夫婦お揃いの勝負服で心を合わせた。
「きょうは、すっごく緊張していたみたいでホテルからコースまで、道中ほとんどしゃべらない。なんて声をかければいいのか」。
夫を気遣いながら「いつもどおりで大丈夫やで」と、さりげなく声をかけ、「コースではすっごく集中していい顔してた。信じてました」と、18番で行われたプレーオフもまた一緒にティーまで戻って応援したという葵さん。
「いつも笑っていてくれればいい」という蟬川の願いにこたえて「常にポジティブでいよう。私が笑ってなかったらあかん」。
苦しいときも、嬉しいときも、いつも笑顔で寄り添い続けてくれた。
復帰戦の5月「中日クラウンズ」から5戦目のビッグタイトルは、もちろん新婚の妻にささげる(※日本開催のアジアンツアー「インターナショナルシリーズジャパン」を含む)。
5年シードとV賞金3000万円と、副賞の「BMW X7 M60i xDrive BLACK-α」に加えて、欧州・DPワールドツアー「BMWインターナショナル」と、日本開催のPGAツアー「ベイカレントクラシック」の出場権を手にした。
お医者さんには完治まで半年はかかる、と言われているそうで、このあとまた1か月の療養期間を取るそうだが、7月3日ー6日の「BMWインターナショナル(ドイツ)」は「絶対に出場したい」と、蟬川。
今度は、海外での復帰戦。
そばにはもちろん、愛妻がいてくれる。