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東建ホームメイトカップ 2008

石川遼は5位タイ

どよめきが沸き起こった。大観衆で埋め尽くされた18番。グリーン横のリーダーズボードに、再びあの名前が映し出された。
一度はイーブンパーまで落ちた16歳のルーキーが、17番ホールを終えて通算3アンダー。石川遼が土壇場で執念のカムバックだ。

デビュー戦で、いきなり実現させた自身初の最終日最終組。スタートするなりその洗礼を浴びた。1番パー4で第2打をまさかの大シャンク。
「バックスイングがいつもより早かった。いつもより、肩が入っていなかった。足も左を向いていた。トップが浅かった。浅いまま、体が突っ込んだ。動きもぎこちなくて、悪いスイングをしてしまった」。

それもこれも「地に足がついていなかったせい」だ。

2日目は25パット。3日目に26パット。
前日まで、面白いように決まったパッティングも、パタリと勢いをなくした。
10番で「お先に」の短いパットを外した。「打つ前にカップを見てしまった」。
オフに、ジャンボ尾崎に「入らなくても悩むな」とアドバイスを受けたが「ジャンボさんが本当に言いたかったのは、最善を尽くしても入らないときがあるということだった」と気付かされた。
3パットを打って出だしの1番ホールに続く、この日2つめのダブルボギーに「悪いストロークをして、入らないのは当たり前と思わなければ」と、自らを戒めた。

極度の緊張感が、練習どおりのゴルフをさせてくれなかった。
「頭が真っ白だった。練習場ではプロでも、コースではまだまだ子供でした」と振り返る。

しかし、それはまだほんの入り口だった。
早々に優勝争いから脱落した石川は、サンデーバック9で本当の重圧とはどういうものかを思い知ることになる。

同組で、前半リードを守っていた手嶋多一の様子が一変したのは宮本勝昌と1打差で迎えた15番。手嶋が、30センチほどの短いパットを外した。傍で見ていた石川にも、手に取るようだった。
「それまであれだけステディで爽やかなプレーを続けてきた人が・・・。手嶋さんに、ものすごい大きなプレッシャーがのしかかっているのが分かった。それに比べ、僕のは自分で自分にかけちゃってる単なる緊張感だった。手嶋さんのとはレベルが違った。僕はその域にも達していなかった」。

はからずも、この先まだまだ思いもよらない試練が待ち受けていることを想像して「怖くなっちゃった」と石川。
「僕が手嶋さんの立場であのパーパットを外したら、イップスになってしまうかもしれない…」。
リーダーの心情を思いやる中で痛感したのは「自分の経験のなさと、精神面の弱さ」だった。
これからのゴルフ人生で、今回の経験が単なる序章だと分かったからこそ、16歳は前を向いた。

「同伴者として、優勝争いのプレッシャーを見られたことは素晴らしい経験。スコアは関係ない。自分は次につながるゴルフをしよう」。

ついて歩くギャラリーの数は、一向に減らない。
むしろ、ますます膨れ上がっていく人の波に石川は改めて心に誓った。
「せめて、醜いプレー態度は見せたくない」。

後半から特に、プレーの合間に何度も何度も繰り返した素振り。
スタート前、コースのレイアウトやグリーンの形状を記したノートに父・勝美さんが書き込んでくれたというスイングの課題。それを、できるだけ忠実に再現するための“儀式”だ。
「最後まで諦めないでプレーがしたかった。苦しみながらも、一生懸命やってきた僕を、最後に神様が認めてくれたのかな」。

この4日間、数あるスーパープレーの中で、自分でもVTRでチェックしてみたいというのが「打ったあとに自分でも感動した」というこの日の17番パー5のティショット。
納得のスイングで320ヤードを記録して、4日間平均299ヤードは記念すべきデビュー戦のドライビングディスタンスでランク1位に。第3打は奥からのアプローチで1.5メートルにつけて、15番からの3連続バーディは5位タイ浮上。

記念すべきツアー初賞金は399万6666円はその額以上のものがあった。
「まさか、僕が一番予想していない結果だった。4日間あっという間だったけど、自分なりにやりきったという思いがある」。
18番グリーンで何度も方向を変えて、ギャラリーに向かって繰り返しお辞儀をした背中に充実感をにじませた。

この日最終日に集まったギャラリーは、大会史上最多の1万5262人。開幕戦から大フィーバーを巻き起こした16歳は、押し寄せる波にも自分を見失うことなく、早くも次の目標を見据えている。

「これからも、毎週1万人を超えるギャラリーにいいプレーやいいショットを見せていきたい。でも、毎週、上位に食い込めるとは自分でも考えたくないから。過ぎたことは忘れて、また来週から上手くなりたいという思いでやる」。
次なる舞台は、兵庫県の山の原ゴルフクラブ 山の原コースで行われる、つるやオープンだ。

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