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東建ホームメイトカップ 2008

石川遼が劇的イーグルで暫定首位に

冒頭の写真は、無邪気に声援に答えているわけではない。石川がカップからボールを拾い上げても、ギャラリーの興奮は冷めやらず。同組でプレー中の藤田寛之と上田諭尉を気遣って、石川自らが「静かにしてください」と請うている図だ。

沸き起こった大歓声は、コース中に響き渡った。
「いったい、何事が起きたのかと思った」と、振り返ったのは後続組で回っていた手嶋多一。
第2ラウンドの9番パー5。残り166ヤードの第2打を、7番アイアンで打った。
「この2日間、降った雨の量と、風。グリーンの湿っぽさ…。いろんな偶然が重なった」と石川。
そして、専属キャディの加藤大幸さんの「ファインプレー」。

前足上がりのライに、1ピン右を狙ってスタンスをとった石川に対して加藤さんは、「あと50センチ左を向いて」と、アドバイス。
この一言がミラクルショットを生んだ。

記念すべきツアー初イーグルは、ミドルホールでのチップイン。手前から、3バウンドで吸い込まれた。絵にかいたような劇的シーンに「なんか、タイガー(ウッズ)みたいじゃない?」と言ったのは、選手会長の宮本勝昌。「遼ちゃんはやっぱり、何か持っている…!」と、声を上ずらす。

「ミドルホールの、しかも7番アイアンで入るなんて。これって、ホールインワンに近くないですか?」と、本人も驚きを隠せない。
「信じられない。自然条件と偶然とキャディさんと…いろんなものに感謝しないといけない」。
そう言って、記念のボールは惜しげもなく観客席に投げ込んだ。
「良いもの見せてくれてありがとう!」と、口ぐちにお礼を言われて、自然と体が動いていた。
「雨の中、たくさんの人が見ていてくれたから…。プロゴルファーをやっていて、ほんと良かった!」。
この一撃で一気に首位に躍り出た。

しかし後半から「いつもどおりの自分が出た」。ショットが乱れて苦戦したが、アプローチとパットでしのいで迎えた最終18番で再び魅せた。
スタンドに鈴なりの大観衆の前で、バーディフィニッシュ。左奥5メートルのスライスラインをねじ込んだ。
無意識に飛び出したアッパーカットのガッツポーズは宮本のいうとおり、ウッズさながら。

暫定首位での決勝ラウンド進出に「実力以上のものが出ちゃいました。僕って、ラッキーな人間だな」と本人は自嘲気味に笑ったが、この日はイーグルを奪った9番のほか、12番のティショットでスプーンを握ってバーディを奪うなど、これまでの攻め一辺倒のゴルフにも、少しずつ変化が見える。
1ホールごと、着実に成長の跡を刻みながら「これが自分の実力と信じると明日が怖い。どうせそのうち自分が出てくると思ってやります」。
2日間で、これほどのプレーを披露してもなお16歳は謙虚にコースと向き合う。

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