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JCBクラシック仙台 2006

谷原秀人「ただ、礼が言いたかっただけなのに」

左がキャディの進藤さん。ひょうひょうとした2人の空気に、表彰式は和やかな空気に包まれた
表彰式で、前代未聞の事態が起きた。大会主催者とコース、ギャラリーとボランティアのみなさんと、今回初めて優勝に立ち会ってくれた家族への感謝の気持ちをのべたあと、チャンピオンがひときわ声を大きくして、呼びかけたときのことだ。

「・・・そして、キャディをつとめてくれた進藤大典(だいすけ)君、今日勝てたのは君のおかげです。ほんとうにありがとうっ!」。

グリーンサイドで見守っていた進藤さんは思いがけない展開に、慌ててバイザーを取って大観衆に向かって挨拶。
そして何を思ったのか、18番グリーンに向かってトコトコと走ってきて、そのまま谷原のいる壇上に上がってしまった。
それから、促されるままマイクを握って絶叫していた。

「みなさん、今日はほんとうにありがとうございました!!!」。

過去にあまり例がない。キャディの優勝スピーチに、会場は爆笑の渦だ。

進藤さんは谷原が、「自分のことを呼び寄せてくれた」と思ったのだという。
「そうやって、後輩の僕のことでさえ立ててくれる。そういう人なんです」と、進藤さんはいう。
「谷原さんは頭の回転がすごく早くて。コースでの状況判断や、マネジメントが抜群に上手いんです。今回、僕がキャディでなくても勝てたはず。なのにスピーチでわざわざ名前を出して、僕を呼んでくれたことが、ほんとうに嬉しくて」と、しばらく興奮冷めやらずだ。

・・・しかし、ここには少々食い違いがあった。
谷原は「ただ、大典に礼が言いたかっただけで、呼んだつもりはなかった」という。
「・・・それなのに、なぜだか僕のそばまで来ちゃったんです。こいつ何やってんだろう、と思ったけれど。面白いから、どうせなら何か言わせてやろうと(笑)」。

ギャラリーには思いがけないプレゼント。
地元・宮城県の東北福祉大コンビのほのぼのとした優勝スピーチに、ファンも大喜びだった。

進藤さんによると、谷原は後輩の面倒見が良くてアニキ肌。
「一見、何も考えていないように見えるけど、実は僕らの相談もすごく親身になって聞いてくれる。人間が大きくて、表裏のないおおらかさ。だから、すごく人望が厚いんです」。

その証言どおり、18番グリーンにはたくさんの友人・知人が応援に駆けつけた。
大勢の人たちの手で、高々と宙を舞った。
その様子を見ていた父・直人さんも、「あいつは、ほんとうに親孝行なヤツなんです」と、感無量だった。

優勝シーンには、チャンピオンの人柄が如実に現れる。
今回の表彰式はどこかのどかで、そして暖かい空気に満ちていた。
  • 初めて家族の目の前で勝ち取った勝利。左から姉のさおりさん、舞さん、母・瑞代さん、父・直人さん

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