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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2003

1年の努力が報われた瞬間、平塚哲二の優勝シーン

最終18番グリーン。30センチのウィニングパットを残すばかりの平塚が、夕焼け色の空を見上げた。「勝てなかったときの ことを思い出してた」。なんども挑んで、跳ね返されてきた初優勝の厚い壁。走馬灯のように駆け巡る 。苦しかったこの1年の思いを、ボールと一緒にカップに沈めた。「やっと終わった」。唇をかみしめ ながら、右手で作ったガッツポーズ。「頑張って、ゴルフを続けてきて本当に良かった・・・」。固く閉 じられた瞳から、涙が一筋こぼれ出た。

祝福にかけつけたたくさんの仲間たち。その目も一様に、赤く濡れていた。今年、初優勝をあげた川原 希や今井克宗・・・。みんな、分かりすぎるほど、分かっているのだ。平塚がこの1 年、どれほどに努力を 重ね、そしてどれほどに悔しい思いをこらえてきたかを。笑顔を涙でくしゃくしゃにして、無言で肩を叩き合った。

もっとも親しい友人のひとり、矢野東(=写真上から3番目)。この週、矢野に出場権はなかったが、ほとんど毎日のように、 夕食をともにして、先輩を励ましてきた。最終日はきゅうきょコースにかけつけ、ロープの外から声援 を送った。「僕は、平塚さんのゴルフと性格にほれ込んでいる選手のひとり。心から応援していた」。 ホールアウトしてきた平塚にまっさきに駆け寄って、何度も何度も抱き合った。

2年前からコーチ契約を結び、二人三脚を続けてきた内藤雄士さん(=同4番目)。「今年、平塚君は技術もゴルフも ものすごく成長した。足りないのは優勝だけだった。僕は気にしていなかったけど、本人は勝てないこ とをとても気にしていた。ほんとうに良かった」。笑顔で見詰め合って、がっちりと、握手を交わした 。

そんな仲間たちの手で、宙を舞った。川原や今井が初優勝のときは平塚が、自分だけ勝てない悔しさを押し隠して胴上げをしてくれた。そのお返しだ。

父・央(ひろし)さんが目を細めて見ていた。しみじみと言った。

「マスコミにも、『もっとも優勝に近い男』とか書かれてね、あの子には重圧もあったと思うんです。 私も周囲から言われたもんです『息子さん、いくら調子よくても勝てなかったら意味ないで』なんてね 。そりゃあもう、悔しかったです。でも、あいつは小さいころからやんちゃのわりに、こつこつと努力する子やったから。ほんと、ようやってくれました・・・」。その目にはやはり、涙が光っていた。

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