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バンテリン東海クラシック 2021

いつかまた、恩人を姫抱っこ。歴代覇者・片岡大育が描く復活シーン

河野(右)は同級生。賞金1位の木下(左)は片岡(中)の香川西高校の後輩。見ない間に大きくなったね…
2年ぶりに戻ってきた三好で、周囲の気遣いがことのほか身にしみる。
2016年の今大会を含むツアー3勝の片岡大育(かたおか・だいすけ)が、復帰3戦目を迎える。

開幕前の練習ラウンドは、香川西高校時代の同級生の河野祐輝(こうの・ゆうき)と、3つ下の木下稜介と回った。

「勝手に僕の名前も予約表に入れてくれてて。嬉しかった」。
特に木下は、今年ツアー初優勝から連勝を達成してついに、賞金ランク1位で本大会を迎えるなど、片岡がツアーを留守にしている間に目も見張る成長をしていた。

「いやあ…、彼は昔からほんとゴルフに熱心でね。遊びがゴルフみたいな感じで。取り組む姿勢がドまっすぐ。後輩だけど、ほんとうすごいな、って思いますね」と、改めて感心しきりでコースに出た。

フェアウェイのど真ん中。肩を並べた木下が言う。
「寂しかったし、本当に心配してましたので。片岡さんが戻ってきてくれてすごく嬉しいです。僕のプロ入りから左も右も分からんときに手をさしのべてくれた人なので」。

「今も陰ながら応援してるよ」と、微笑み返した片岡。
急な打ち下ろしの1番グリーンに遠く目を向け、「ああ…やっぱりツアーはいいなあ」と、つぶやいた。
「思い出のコース。大好きです」。
三好の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

2019年にシード落ちをした片岡が、顔面神経麻痺の症状を発症して離脱したのは昨年の11月だ。ストレスなどから来ると考えられるが確たる治療法もなく、完治まで2年はかかると言われた。

クラブは握れたが、勝手に涙が止まらず、瞬きもできず、口も上手く開けられない。
「そのうちボールが3個も4個にも見えたり…ゴルフにも集中できなくなった」。
QTランク48位の資格で復活を目指していたが、無念の離脱。

すぐに10日間ほど入院したが、退院後もすぐ試合に出られるような状態まで回復できなかった。
「今年春先にはおさまるかな、と思ったけれど。気配もなくて」。
結局今年6月まで完全休養に充てていた。

まだ勝手に涙が出るし、ラウンド中もタオルが手放せない。
完治には遠いが「あまりに試合を離れてしまうと試合勘もなくなってしまう」。
症状の軽減に合わせて思い切って復帰をしたのが今年8月の「セガサミーカップ」。
さらに次の「Sansan KBCオーガスタ」に続いて、これが3戦目だ。

20ー21年統合のロングシーズンも、試合に出られない間に出場優先順位はどんどん下がり、主催者推薦を頼りにする片岡にはなお、残り少なくなった。

「焦りはありますけどしょうがない。出られる試合でシードを狙って…。できることをやろう、と。そこを目指してやっています」と、あきらめない。
「今週は、トップ10や優勝争いもある、と思ってるんです」と、当時の記憶を懸命に手繰る。

2016年の本大会はその年、賞金王の池田勇太を倒して恩人を”姫抱っこ”。
当時、バックを担いでくれた伊能恵子(いのう・けいこ)さんは、日本地図を完成させたあの伊能忠敬の末裔で、「プロより有名なキャディさん」と冗談を言われるほど人気があった。

勝ったら片岡より長身の伊能さんを、表彰式で抱っこすると約束していた。
「楽しかったな…」と、今も自然と笑ってしまう”迷シーン”。

あれから5年。
片岡が休んでいる間に伊能さんも”名測量士”の勘や体力が鈍ってしまい、キャディ業復活へにむけて、懸命の”リハビリ中”。
「いずれまた、必ずコンビも復活しますよ!」と、片岡。
その日を待ち望むファンはとても多い。
  • 楽しかった5年前。思い出も復活への原動力

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