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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2010

石川遼が62の大爆発、6位タイ浮上

まさに逆境を力に変えた。石川が、ドン底から這い上がった。前日初日は、とどめのボギーに、うなだれて引き上げた最終18番パー3。この日は急勾配のグリーンに向かって打つ。右のラフから15ヤードは、「キャリーとランと、半分半分のアプローチ。サンドウェッジで打って、入れるつもりもなく、ただミスしないよう、上手く打てれば、と。それがまさか入るとは!」。

嵐のような1日を、チップインバーディで締めた。この最終戦はとっておきの黒の革パンツでキメた。スラリと長い足で、思わず歓喜のステップを踏んだ。悲鳴にも似た歓声の中、何度も突き上げたガッツポーズ。雨上がりの澄んだ青空の下で、19歳の笑顔が輝いた。

前日を振り返るにつけて「昨日とは、別人のようなゴルフが出来た」。そう言ったそばから、本人も前日との14打差には、笑いをこらえきれない。途中、吹き出しながら言った。「今日は何かから、解き放たれたようなプレーが出来ました」。

賞金レースで争う金と、池田との直接対決となった初日。記録の残る92年以降では、大会初日最多の6425人の大ギャラリーが駆けつけ、「独特の雰囲気」にも、のまれた。

渦中の3人は、ひとり屈辱の最下位スタートに、かなり落ち込んだ。
「人間だから。良いときも悪いときもある。それでも悪いなりに、もう少し抑えられたのではないか・・・。とにかく情けなかった」。

反省からホールアウト後は、練習場に直行した。「クローズになっていたスタンスをスクエアからオープンにしたのと、トップのクラブの位置の確認をした。微調整です」。効果はてきめんだった。練習の最後に父でコーチの勝美さんが言った。「そのスイングなら、明日はバーディが半分取れてもおかしくないね」。
「・・・さすがに半分は難しいでしょう、とは思ったけれど」。まさか、それが現実になろうとは。

その始まりは3番。10メートルは、ちょうどプロ入りから数えて通算1000個目となったバーディ(イーグルも含む)からだった。不運まみれの初日とは、打って変わってラッキーにも恵まれた。続く4番のティショットは「完全に左に落としたと思ったけれど。行ってみると、木の下に落ちていて」。まして「打ちたい方向にぽっかりと空間が空いていた」。8番アイアンを握った残り160ヤードは「本当に普通に打っただけ」と、こともなげに木の間を抜いて、4メートルのバーディチャンスに。

最大瞬間風速11.5メートルの突風が吹きはじめた12番でも、「あれだけ右に打って、セーフってどういうセーフなのか、と」。苦笑いで首をひねった。「僕の中では完璧にOBだったのに。木とカート道で、跳ねたみたいで。どこまでもついている。ロープの中にあると聞いて自分でも可笑しくなりました」。

13番ではいよいよOBを打ったが、6メートルのボギーパットに、ガッツポーズも飛び出した。前日、6オーバーを打った選手が、この日8アンダーの62。最下位からのスタートは「かえって目の前の1打に集中しやすかったかもしれない。上を見すぎてはいけないけれど、下には何も見るものがない。それならとにかく、目の前の1打に100%、注ぎ込む以外に何もないから」と、その心境を語った。

早朝は嵐のような悪天候に、スタート時間が遅れたことも良かった。前日のスコアを少なからず引きずっていて、「朝からモチベーションを上げることに苦労していた」。その中で、まずは宿泊先近くの練習場で40分の調整を重ねた上で、コース入りしてなお予定より、1時間の猶予が与えられたことで、入念なパット練習でも手応えをつかめたことで、前日の悪夢を完全に払拭して気持ち新たに1番ティに立ったころには、朝の豪雨もうそのように青空がのぞいた。
「今日はどこまでもついている。自分でも不思議なくらい」。天候さえも味方につけて、東京よみうりを疾走した。

首位の池田とは6打差。賞金ランク1位の金には1打リードの6位タイ浮上。逆転での2年連続の賞金王には、このツアー最終戦で勝つしかほかに方法はない。「まだまだ自分の置かれた立場は厳しいが、残り2日も諦めずにやるという言葉に尽きる」。
今年もとっておきのドラマで最終戦を飾る。

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