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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2010

石川遼は2年連続の賞金王ならず

反撃もここまでだった。13番は、460ヤードの打ち下ろしのパー4。右にOB、左は林。初出場の2007年から苦手としてきたホールだ。

ティショットは0番アイアンで刻みながら、左に曲げた。
斜面から木の間を抜いて打った第2打はすぐ目の前のラフで止まり、距離を残した3打目もグリーン右手前に外した。
1メートルに寄せたボギーパットも決められず、ダブルボギーに沈んだ。
栄光が遠のいた。

賞金ランク2位で迎えたこのツアー最終戦で、逆転の2年連続賞金王に輝くには、優勝が絶対条件だった。
初日に最下位も、2日目に62の猛チャージでたちまち息を吹き返し、「最終日までに、15個伸ばす」と誓った。
奇跡を信じ、首位と8打差の10位タイからスタートした最終日は「夢実現まであと6個」。前半は1番から3連続のスタートダッシュを含む計6つのバーディで早々に到達したが、中盤に躓いた。

13番は「ティショットで毎日、クラブ選択に迷ってしまう」。石川には鬼門のホールだ。「マネジメント力がまだまだ。来年の課題。賞金王になるには足りなかった部分」と、反省を口にしながらそのあと残り5ホールでも、石川から笑顔が消えることはなかった。

このツアー最終戦を、心から楽しむ気持ち。可能性が消えてもなお投げない姿勢。
「18番に来て改めて思ったのは、こんなにたくさんのみなさんに支えられてゴルフが出来ているんだな、ということ」。
距離のある難しいパー3は、馬の背のグリーンに向かってピンそばの3番ウッドは、西日で眩しくて、ティーインググランド上の選手には、落ちた位置も見えづらい。

「そこにひとりのお客さんもいなかったら、乗ったかということさえ分からない。みなさんの歓声が、どれだけ近く寄ったかということを、僕に教えてくれたんです」。

今年最後の1日のために選んだ真っ赤な革パンツ。揃えで作った真っ赤なキャップを取って、何度も何度も手を振った。直立不動で何度も深々と頭を下げた。
最終日もまた、史上最多の17070人の大ギャラリーに、満面の笑みを振りまいた。16番からの渾身の3連続バーディ締めこそ「今年も1年間、支えてくださったファンのみなさんへ」の感謝の気持ちのあらわれだった。

2年連続の栄冠は逃したが、今年も数々の伝説を作った。
最終日に史上最小ストロークの58をマークして劇的逆転Vを飾った4月の中日クラウンズ。
フジサンケイクラシックで連覇を達成し、11月の三井住友VISA太平洋マスターズは「大好きな御殿場」で今季3勝目をあげて、逆転賞金王へとのぞみをつないだ。

今年も激動の1年間。
「もうこれで終わってしまうなんて、なんだか寂しい・・・。まだまだプレーしていたい」。名残惜しげな19歳に、親友のブレンダン・ジョーンズが笑った。
「僕はしばらくゴルフはいいよ。早くオーストラリアに帰りたい・・・」。そういえば、前に片山晋呉も同じようなことを言っていた。
「片山さんもこの試合のあとは“しばらくゴルフはいい”と。それくらい、真剣にゴルフと向き合っているからこそ出る言葉。もっとプレーしたいと思っている僕は、まだまだですね。もっと真剣にゴルフに向き合っていかなければいけないということです」。

昨年の賞金王として、恥じないゴルフを。その責任感にも突き動かされた1年だった。賞金レースの真っ只中のスイング改造も、底なしの向上心ゆえだった。
「全体的にレベルアップも出来て、最高のシーズンが送れたと思う。今週も集中してやれたし、今日のプレーは来年のマスターズにつながると思う」と、重ねた努力の成果を感じる一方で、やはり心くばりの19歳は、ファンの気持ちを慮る。

「みなさんの期待に反して今年は賞金王に届かなかったこと。初日の出遅れ。今日の13番・・・。今さら取り返しはつかないけれど、2009年の賞金王らしいゴルフが出来たかどうか。みなさんはどう思っていらっしゃるのか、聞いてみたい・・・」。

韓国人として、初の王座に輝いた金庚泰(キムキョンテ)。「僕以上に、ゴルフに愛情を注ぎ込んだ人が上にいる」と、最高の賛辞を送った昨年度の賞金王は、ますます目を輝かせて「自分がいまやりたいこと。もっとスイングをよくしていくこと。今日、すごく良くなってきたアイアンであり、ドライバーのタイミングを失いたくないので」と最終戦を終えてなお、もう今にもすぐに、練習場へ向かいそうな勢いだった。

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