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中日クラウンズ 2008

ディフェンディングチャンピオンが「37歳のおっさんも頑張っていることをアピールしたい」

石川遼が、最年少優勝をあげた昨年の5月のマンシングウェアオープンKSBカップでのことだった。

初日が中止になったにもかかわらず、見に来てくださったファンのみなさんにお詫びと感謝をこめて、選手のサイン会を開くことになった。

宮瀬博文もその輪に加わったが、なぜか誰も並んでくれる人がいない。
折しも宮瀬は、その2試合前の中日クラウンズで涙の復活優勝を飾ったばかりだった。
「みなさ〜ん、僕、こないだ勝ったばっかりなんですけどぉ〜」。
わざと不貞腐れたように机に突っ伏す姿を見て、かたわらでペンを走らせていた兄貴分の加瀬秀樹が笑って言ったものだ。
「ヒロは地味だからな〜」。
そんな憎まれ口を言われて口を尖らせつつ、いつもの人の良い笑みは絶やさずに声を張り上げた。
「僕は喜んでサインしますよ〜。誰か来てぇ〜」と、懇願して笑わせた。

その声に誘われて、「私、宮瀬さんのファンですよ!」という人が続々と現れて、あっという間に行列ができたのだが、「僕は確かに、地味な選手ですからね」と、本人も認める。
「それを克服しようと思って懸命にアピールすると、かえってダメになるタイプですから」と、笑う。

「だからこそ、遼くんには本当に感謝です。彼ひとりのおかげで、今年ツアーは一気に盛り上がった。…なんて、37歳のおっさんがこんなこと言うのもアレなんだけど(笑)」。

もともと童顔だから、若く見えるが今年37歳。石川よりひとつ下の15歳の長女を筆頭に、3児のパパだ。
プロ20年目。ゴルフ歴なら30年目。昨年まで、史上最年少の初シード入り記録(21歳)を持っていたのが宮瀬だった。
以来、守ってきたシード権はおろか、出場権すら失ったのが一昨年前。
どん底を見ただけに、昨年の今大会でのツアー通算7勝目は涙せずにはいられなかった。

「長くゴルフをやってきて、いま一番思うのがモチベーションをどう保つのかということ」。
以前は朝、起きるなり「よし、今日もやるぞ!」と、思えた。
今は、しばらく頭が回転しないばかりか、逆に無理をして気合いを入れるほど空回りすることが多くなった。
「でも性格的に、必死に練習しないと自分がサボっているように感じてしまう」。
しかし、一生懸命に練習しすぎると、体も気持ちも最終日までとても持たない
ここ数年、そんなジレンマに悩んできた。より上を目指そうとして、しかし思うようにいかず、ストレスを抱えていた。

吹っ切れたのはこのオフだ。
「どんなに頑張っても、この先、自分のゴルフが劇的に変化することはない」と気がついた。
「ならば、いま持っているものを磨けばいい」と、思えた。
「でね、そう思えたことで、今年、僕は大丈夫だと思うことができたんです」。

これからは完璧を求めるのではなく、悪いなりにもこれまで積み上げてきた経験で乗り切っていく。
そんな渋みのあるゴルフで今週は連覇を狙う。
ディフェンディングチャンピオンが、悟りを開いた。
「キレのあるゴルフは、若い子に任せてね。地味だけど、37歳のおっさんも頑張っていることをアピールしたい」と笑った。

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