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長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップ 2014

石川遼が記念大会を制す【インタビュー動画】

1年8ヶ月ぶりの勝利の味は、22歳には何よりの栄養補給になった。土壇場で追いつき、プレーオフ3ホールの末に退けたのは、いま日本でもっとも強い男。「孔明さんは、いま賞金ランク1位で、それにふさわしいゴルフをされる方」。初日から2日間を同じ組で回り、つくづくとそう感じていたからこそこの一騎打ちを制したことには価値がある。

そして偶然、帰国が重なった松山英樹だ。いま一番のライバルは、互いに久しぶりに日本ツアーで顔を揃えて、「最後の最後まで、今日は英樹が怖かった」。3日目まで伸び悩んだとはいっても「もの凄い勢いで、英樹が上に来る危機感は常にあった」と石川は言う。
怪物がいつ猛攻を仕掛けてくるか。同い年のライバルの勝負強さは嫌というほど知っている。その影に、怯えながらもぎ取った。その点でも価値ある逆転Vだった。

本格参戦2年目の米ツアーはシーズン中にもかかわらず、このほど石川がきゅうきょ帰国を決めたのはアメリカで勝つためだ。「米ツアーで優勝するには、やはりショット力」。松山の米ツアー制覇で改めて、痛感させられても試合に出続けている限り、日々の練習もただの微調整にしかならないと考えた。

本当にアメリカで勝ちたいと思うなら、思い切ってじっくりと、スイングを立て直す時間が必要だと石川は判断した。米ツアーのここ3戦は、全英オープンの予選会を兼ねるが、「それはまた改めて来年」と、あえて石川は成田行きの飛行機に飛び乗った。

一昨年は腰痛に苦しみ、昨季は左の股関節が、疲労骨折寸前との診断を受けて、医師には「よくこれで球を打てましたね」と、驚かれたほど。あれほどの練習の虫も、ここ2年は球数を減らすしかなくなり、それが精彩を欠く一因に。股関節に負担をかけないスイング改造に着手し、たゆまぬ鍛錬で過酷な転戦生活に耐えうる体を取り戻したとはいってもアメリカでの優勝にはほど遠く、「目先の結果ばかりにこだわって、技術の向上は二の次になっていた」。二部ツアーのウェブドットコームツアーとの入れ替え戦の末に、やっとシード権は獲得出来ても、「このままでは絶対にアメリカでは勝てない」。

シーズン中としては異例の約1ヶ月の集中キャンプ地をここ北海道に定めて、そこに今季国内3戦目の今大会すら組み込み目指したのは、「世界にも通用するスイング作りと優勝の両立」。先週は1日中明け暮れた。今週もラウンド後に毎日3時間も打ち込んだ。猛練習の成果は日に日に上がり、「やっと最終日にして、納得のいくショットが続けて打てるようになってきた」。
13番では今年パー5から、長いパー4に変わった最難関ホールでこそ「世界に通用する1打が打てた」。170ヤードの2打目は右からのアゲンストに8番アイアンを握り、ピンそばのバーディで応戦。
「久しぶりにしびれるような状況を味わう中で、きわどいパットも立て続けに決められた」。本戦の18番は「意地でもバーディを取る」と、1メートル弱も逃さず土壇場で孔明に追いつくと、サドンデスの3ホールは「ドライバーからパットまで、全部もの凄い重圧と緊張感の中でも良いのが打てた。これが一番最高級の練習なのかな。あの最後の1打は練習で100球続けて入るよりも価値がある」。
このV争いも目下、強化合宿の一環だ。実践の中でこそ、血となり肉となりえる珠玉の1打があると、改めて実感した。2.5メートルのウィニングパットは上がってすぐに、優勝報告に駆け寄ったミスターもちゃんと見ていてくださった。「僕なんかより、さらに、さらに大きな重圧の中で、輝きを放たれてきた方は、やっぱり違う。長嶋さんはボールがどこへ行ったかより、中身を見られていた」と、そのこともまた嬉しい。
ミスターは、最後のあのバーディパットは「遼くんが、打つ前から入ると分かっていましたよ」と言ってくださった。「パットを打つ前のアドレス、ラインを読む姿勢が素晴らしかった。世界の舞台で磨いた技を、惜しみなく披露してくれましたね」とくしゃくしゃの笑顔で優勝を喜んでくださったミスター。「感激です。嬉しいの一言です。一生の思い出です」と節目の10回大会こそミスターに、大会初制覇を捧げられたことにも感無量だ。

大勢のファンの前で久々に披露した優勝スピーチは、「盛り上げるために言ったのではなく、すべて正直な気持ちです」。最終日は大会最多となる7,991人のギャラリーが駆けつけてくださったことにも感激しきりで、「みなさんに、アンケートを取りたいです!」。
ゲーム展開も含めて今日は1日、本当に楽しんでいただけたのかどうか。観戦ルートや選手のギャラリーサービスは、行き届いていたかどうか。これからのトーナメントに希望することは何か。それが何より気がかりで、「もっともっと素晴らしいツアーにするために、みなさん一人一人に聞いてみたい」。2年目の米ツアーで実感するのは「向こうではゴルフを見に来るというよりは、会場がひとつの遊園地みたいということ」。
子どもたちは美味しいものを食べたり、アトラクションを楽しむ。そして「お父さんたちにはお酒をたくさん飲める場所もある。みんな心から楽しんでいて、日本もそんなツアーであって欲しいし、そんなトーナメントこそ、選手を育ててくれると思うので」。長く離れているからこそ募る。日本ツアーへの熱き思いはひとたび口火を切ると止まらず、そんな自分にふと返って、「話が長くなっちゃってスミマセン・・・!」。
どんなに時間を割いても言い足りない。石川の語り尽くせぬ熱い思いを聞いたミスターは、さらに目尻を下げて「この大会が、遼くんがアメリカで体感してきたような、ファンに愛されるようなトーナメントになっていくことと信じています」と言われたそうで、石川の思いもまたいっそう強くなる。
そんなミスターにも、そして愛する日本のファンにもそのうち必ず朗報を届けてみせる。この1勝で、大きな自信をつけてもなお「まだまだ課題はある。まだまだ練習して努力して、英樹に追いつく。アメリカで勝つ」。大観衆の前でそう約束をして、石川はまた合宿地に帰っていった。

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