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カシオワールドオープン 2014

平本穏(ひらもとやすき)は「人事を尽くして天命を待つ」

名前は温厚そのものでも、その名前を間違えられたらガツンと言いたい。「“隠れる”・・・って、そんな名前、誰がつけるんじゃ」と、そこはつい広島弁もきつくなる。ダイレクトメールの宛名や、コースのロッカーキーを入れた封筒の宛名。
「平本隠」と書き間違えられることも多いが、そこはまず一番最初に言っておきたい。

穏の「やすき」は穏便の「穏」。28歳。広島県出身は一児の父。

「今日は“しわい”パーパットを7、8回拾ってる」。
注釈:しわい=“なんだよこれー、やめてー”という時に使う広島弁。
「そういう、僕らレベルならドキドキとするような」。
10番で右バンカーからの3打目がピンに当たって15センチにつくなど運にも恵まれたが、もっとも顕著だったのが最後の18番だ。
刻むか、狙うか迷った2打目。「アゲンストをプラスして、ピンまで280ヤード」。一度持った5番アイアンを、スプーンに持ち替えた。
「それがダフって、プッシュアウトして、右側のカメラの梯子の上の方まで飛んで。これはやばい、と」。蒼白の1打は、跳ねて戻ってきたが、ロープの外の小さい子が拾い上げてしまうハプニングも、無罰でドロップして、パーを拾って事なきを得た。この日は、14番が今週、唯一のボギーと3日間とも60台を並べて、ついに首位を捉えた。

「ゴルフの神様がくれたチャンス」と、まさに感謝しきりの1週間だ。表現は悪いが「僕は一度は死んだ」。現在賞金ランク100位は、今年QTのサードも失敗。「あまりにも自分にプレッシャーをかけすぎて」。一度は途絶えた来季への道。「腐って、俺は何やってんだって。ゴルフもしたくなかった」。日曜日は、頭を冷やそうと、ひとり夜釣りに出かけた海辺。しかし「ゴルフもダメ、魚も釣れない」。連絡を受けたのは、いよいよ自暴自棄になりかけたとき。現地で欠員が出るのを待つ「ウェイティング制度」で、今大会に滑り込めるかもしれないという。
火曜日に会場に来て、出場が決まったのが前日水曜日の正午。平塚哲二が欠場しても、本当ならその時点でも、出番はなかった。平本の優先順位は2番目。しかし、同1番目の秋吉翔太が登録に間に合わず、巡ってきたビッグチャンスだ。

今年は3日目に3位タイにつけたブリヂストンオープンで披露した妄想癖。ウィニングパットを決める瞬間や、優勝スピーチする姿を夢想して、モチベーションを高める方法も、こりごりだ。「ああいうところが自分の弱点。そんなこと、やってるからダメなんだ」と痛感させられたここ1ヶ月だ。

同じ広島県出身の竹谷佳孝が今季、悲願のツアー1勝をあげたときには、相手は6つも年上ながら、「先を越しやがって」と煮えくりかえった胸の内。反省している。見事に崩れた最終日。「自分に圧をかけ過ぎて・・・。これをクリアした竹谷さんは凄いな」と、やっと先輩を見直した。

妄想は、もうやめた。自身初の最終日最終組は、真摯に挑む。改めて、所属先「アイディオー」の井戸道彦社長の言葉を胸に刻んだ。「人事を尽くして天命を待つ」。自分のゴルフに格好良さを求めるのももう、やめた。「ダメ元なんでね。だふっても、ちょろっても泥臭く、結果がどうあれ明日は自分が出来ることをやるだけです」。目の前の、現実だけを見て歩く。

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