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日本プロゴルフ選手権大会 日清カップヌードル杯 2013

松山英樹が単独首位に【インタビュー動画】

最後は奥のエッジから7ヤードのバーディトライ。カップに消えた瞬間に、恩師が叫んだ。「あいつ、俺との約束を守りやがった!」。本当に、言いつけを良く聞く教え子だ。

東北福祉大の阿部靖彦・ゴルフ部監督の携帯電話が鳴ったのは、この日3日目の朝。キャディの進藤大典さんに、懇願された。
「僕らでは駄目です、監督。戻ってきてください!」。

15番は右の林からの2打目で、ソールをした際にボールが動いたと、ホールアウト後に松山が2打罰をくらったのは前日2日目。
「やってしまったことは仕方ない。自分の不注意です」と、本人も冷静に受け止めていたつもりだったが、後悔はあとから押し寄せてきた。

「なんであのとき自分で気づかなかったんだろう、とか。考えたってしょうがないのに。気持ちが切り替えられなかった」という。
「俺は本当は、今日は仙台に帰らなきゃいけなかったんだ」と、阿部監督。だが可愛い教え子が、「モチベーションが上がらない」と、苦しんでいるのを見捨てては、帰れない。コースに舞い戻った。「やってしまったもんはしょうがない。もう終わりにしろ」とお尻を叩いた。周囲の雑音も「そんなのは、言わせておけばいいさ」と諭した。「今日は、4アンダーで回って来い」と、厳命した。
「・・・ええっ、無理っすよ」と、松山。「いいや、6バーディ2ボギーで回って来い!!」。

はてさて、18番グリーンで待ち構えていた監督。その時点で6バーディの3ボギーに「いま5バーディ、2ボギーのペースなんだよ」とつぶやいた。その瞬間に、松山が2打目をグリーンの奥にわずかにこぼしたのを見て「ああ、駄目だな」と、諦めて背を向けた恩師を、このときばかりは良い意味で裏切った。

この日は普段と逆向きの風に、「今日はバーディを打ってもすぐに、ボギーを打つかもしれない。いちいち、浮かれては駄目なので」と、どんなチャンスを決めても淡々とプレーを続けていた21歳も「さすがに18番は、最終ホールだったし難しいラインが入ってくれたので。自然と出た」と、監督にも特大のガッツポーズを見せつけた。

「英樹は昨日、良い勉強をした。早いうちに経験出来て良かった」と行った阿部監督の気持ちもしっかりと伝わっていた。この日は17番で、右の林に打ち込み似たような状況に、自然と昨日のことが頭をよぎる。「細心の注意を払わないといけない」。ボールから、少し離してソールするなど学びもしっかり生かして上がってきた。

「今日は、最初は複雑な気持ちでスタートしていきました」と、まだすっきりとは切り替えられないまま出ていった松山だったが、最後に心は晴れ渡った。ラウンド中は、難コースと格闘するうちに自然と目の前のことに集中していった。

「昨日とは違う風向きにも、うまく利用してプレーが出来たと思う」。
210ヤードの3番パー3は、この日はアゲンストの風。「優作さんが、曲げてバンカーに入れた」。同じ組の先輩のプレーも冷静に加味して「4番アイアンで低い球で打った」と、右3メートルのバーディチャンスも逃さない。
また12番のパー3は、普段は4番アイアンを握る。しかし「今日はアゲンストの風。3番アイアンで普通に打てば、球が止まると思った」と、奥2.5メートルにつけてこれまたしっかりとモノにした。1メートル前後のきわどいパーセーブも、「入れなきゃいけない」。高い集中力で、1ストロークも無駄にしない。

ベストスコアの67で回って2位と4打差つける通算8アンダーは、最終日の前に、単独首位につけるのはこれが初。「明日は緊張するとは思うけど、それをいかに力に変えるか。4打差あっても、自分がいくつ打つかも、誰が来るかも分からない。考えないほうがいい」と浮かれず、「明日は、俺にバースディプレゼントをしてくれ」と、19日に51歳の誕生日を迎える監督に、最終日にこそ報いてみせる。

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