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パナソニックオープンゴルフチャンピオンシップ 2025

「じゃないほうのリョウ」から勝俣陵へ「ハットのリョウさん」9年目の初V

あれは3年前。
同じ埼玉出身で、2017年のデビュー前から目をかけてくれた4つ上の石川遼(いしかわ・りょう)と、2022年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」で、3日目最終組の同組プレーが実現した。

ラフに入れたホールで、ボール探しのスタッフさんの声が聞こえた。
「“じゃないほう”のリョウだね」。

リョウはリョウでも、そのまま同大会で、10代、20代、30代での3世代V3を達成するなど、スター街道を走り続ける“遼”との差は歴然。
それでも「いつまでも言われるのは悔しい。勝俣陵(かつまた・りょう)と呼んでもらえるように頑張ろう」と、翌年に結婚を控えていた妻と誓った。

3年前の夫婦の思いがいま結実した。18番のVインタビューは「…勝俣陵選手です!」MBSのアナウンサーさんによる、高らかな選手コールを合図に始まった。
来月2歳になる娘を抱きながら、耳を傾けた妻。
「120点の夫です」。
都内の自宅から、当日始発で駆け付けた。「来て緊張させるのは嫌。迷いましたけど、サプライズで来て本当に良かったです」と、涙ながらに焼き付けた。



3打差の単独首位からスタートした人生初の最終日最終組で、デビュー時から悩みの「あがり症」は直っていないと痛感した。
特に、後半14番のパー4で、40ヤードの2打目を入れるイーグルを奪い、4打のリードを作ったのに次の15、16番共に3パットの連続ボギー。
1差に縮まり緊張は来た。
「落とせない。相当しんどかった」という。

でも、初シードの22年から、オフの合同練習を重ねてきた大学先輩の片山晋呉(かたやま・しんご)がきのうも、今朝も連絡してきてくれ「誰でも緊張するしミスはする。冬に教えてきた練習は、緊張した場面でもできること。しっかりやり切って来い」。

残り2ホールを、夢中のパーセーブで逃げ切り「頭が真っ白になった」。

前夜、日課の銭湯で考え抜いたというガッツポーズもしそびれた。
大勢の仲間に、大量の水を浴びせかけられ「勝手に涙が出てきました」。



初タッグを組んだ昨年大会では、2日目の首位から最後は4位に。大学先輩の浜谷キャディとの
雪辱も果たせた。




震える声で感謝した。
「合宿の成果で最後までやり切ることができました。この喜びを、一番に片山さんに伝えたい」。プロ9年目の初Vは、まっさきに恩人に届けた。



甲子園を目指して野球に打ち込んだが、両ひざの怪我で断念。中2でゴルフに転向すると、コースデビューから5ラウンド目でもう80台で回れるようになった。
強豪の埼玉栄高校では朝練を欠かさず、放課後は毎日夜9時まで練習。日大を経て、2017年にデビューし、22年の初シードから4年目の29歳で初優勝。

4年前から師事する三觜コーチと約束した「20代V」を実現し、「30歳からしっかり勝てる選手に」と、思いも新た。



中学時代の学習塾が、妻との最初の出会い。大学時代に再会し、23年に結婚した。
妻によると、試合で長く家を空ける分、休日は家事、育児を完璧にこなしてくれるそうだ。
料理店を営むお父さんの影響で、「僕が作る」と、料理も上手。
ローストビーフや煮込みハンバーグ、フランスパンをくりぬいて作るパンシチューなど、凝ったメニューもパパっと手際よい。

「彼が全部受け止めてくれるので、喧嘩もしたことがないんです」と、妻。
コースでは緊張した場面でも、ギャラリーや地元ジュニアやボランティアさんと笑顔で気さくにグータッチで触れ合う。



2年前から特色のあるつば広帽子をトレードマークとしており、「ハットのリョウさん」と呼んでくださるファンも増えた。

「次のリョウくんは僕だぞ、と言いたいですw」。
もう“じゃないほう”じゃない。
リョウはリョウでも勝俣陵(かつまた・りょう)が、今季8人目の初Vリストに堂々と名前を載せた。


パナソニックの自転車にもハットが似合うー

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