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コカ・コーラ東海クラシック 2008

武藤俊憲「片山さんの25勝を阻止します」

まず体が資本と、改めて思い知らされたのは昨シーズンだ。2006年にツアー初優勝をあげて、さらなる飛躍を目指し、前途洋々で迎えた2007年。開幕戦で7位タイにつけ、上々のスタートを切ったのもつかの間だった。

4月にウィルス性の肝機能障害にかかって戦線離脱した。
「完治するには休養を取るしかない」との診断に従って、約1ヶ月の自宅療養。

少し症状が治まった、と思って油断して調子に乗ると一気にだるくてたまらなくなる。
絶対安静を痛感し、楽しみにしていた全米オープンの日本予選も思い切ってキャンセルして、治療に専念。

そのかわり、復帰戦の「ミズノよみうりオープン」で2位タイにつけ、2年連続で全英オープンの出場権を手にしてひとまず鬱憤を晴らしたものの、忸怩たる思いは残った。

「1年間、集中力を切らさず戦い抜く体を手に入れたい」。
そんな思いから、小林宏平トレーナーと新たに契約を結んだのは今シーズン。
「アスリートゴルファーを目指そう」との合い言葉をもとに、これまで以上に体をいじめ抜いたこのオフ。

地元・群馬県の所属先、赤城カントリー倶楽部でラウンドした記憶はほとんどない。
コースで一番きつい傾斜を選び、何度も何度も駆け上る。
体が悲鳴を上げるまでダッシュしてもまだ許してもらえず、小林さんに恨み言をこぼしたこともあるが、大接戦を繰り広げたこの日最終日の最終ホールで残り167ヤードの第2打を、1ミリの緩みもないショットでピン3メートルにつけて、池田を振り切ることができたのも、あの日々があったこそだ。

「武藤くんは、素晴らしいドライバーショットを打つ。そのうち、必ず化ける」と予言したのは米ツアーから一時帰国中の丸山茂樹だ。

谷口徹も、かねてよりその潜在能力に注目していた。
「球を捕えるセンスがバツグンに上手い。小技にもそつがない」。
そして、なんといっても豪快な飛距離と高い弾道。
ツアー初優勝をあげた2006年にも、谷口はよく言ったものだ。
「武藤のショットがあれば、俺なら毎週でも優勝争いしてみせるよ」。

そのあとも「おまえはすぐにボギーやダボを叩くからアホや」とか「ショットはいいけど、アプローチは下手」だとか、憎まれ口を叩いてきたのも、その力を認めていたからこそ。

谷口の歯に衣着せぬ物言いに、当時は「おっしゃる通りでございます」と素直に頷くしかなかった武藤だが、あれから3年を経た今では、少しは堂々と言い返す自信もついた。

「ショットがいいから、谷口さんよりスコアも良いですよ」。
相変らずニコニコと人の良い笑顔を浮かべながらも、そんな“応戦”が出来るようになった。

この日最終日、最終組で直接対決した片山晋呉にも、なぜか以前より威圧感を感じなかった。
テレビ解説をつとめた水巻善典は「それこそ武藤くんが成長したという証だ」と評価した。

「むっちー(武藤の相性)は、素直でいい子だけれど。プロの世界で必要なのは“二番では意味がない”と思えるくらいのふてぶてしさ」と、かつて苦言を呈したのは谷口だ。

武藤がその言葉を覚えているかどうかは知らないが、優勝インタビューの最後にポロリ。
「これからも一つでもたくさん優勝争いをして、片山さんの25勝を阻止したい」。
いま日本でもっとも強い選手の一人にも堂々の宣戦布告に、谷口にも負けず劣らずのプロ根性をにじませた。
  • 「主催者、関係者、ギャラリー、ボランティア・・・みなさんがいてくださって初めて僕らは戦う場所を与えられる。いつも本当にありがとうございます!」武藤

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