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カシオワールドオープン 2000

「2度、声を上げて泣いた」

悩み抜いた鈴木亨の2年と5か月

 勝てなかった2年と5か月。
 その間、「実はひそかに2度、声を上げて泣いた」と鈴木は打ち明ける。
 1度目は昨年、日大時代の同期の川岸良兼が勝ったフィリップモリス終了時。2度目は、今年の日本オープン終了時だ。

 「本気でゴルフをやめたい、と思った。そのくらい、精神的に追いこまれていた」。

 ツアー4勝目を挙げた98年、もっとレベルを上げたくて、千葉県・季美の森ゴルフ倶楽部と隣接する土地に、思いきって30年ローンの新居を建設。ゴルフに没頭できる、最高の練習環境を整えた。
 トレーニング量も増やし、ダイエットなどにも、これまで以上に積極的に取り組んだ。

 「なのに結果が出なかった。これまでは、勝てなくても稼げていたし、稼げない年も優勝できた。それが昨年から今年のはじめにかけて、勝てないどころか、稼げもしない。本当に悔しかった。喜びなんて、なにひとつなかった」
 さらに、いつのころからか、たとえ初日に好スタートを切っても、決勝ラウンドで叩いて後退というジンクスが続くようになった。

 10月の日本オープンでもそうだった。初日71でまわって11位タイ。「かなり調子も上がっていたし、『いけるかな』と確信を持った試合だった」しかし、3、4日目に叩いて結局30位タイ。

 「これと同じパターンで崩れた試合は、他にもたくさんあった。こんなに一生懸命やっているのに、俺はどうして、こんなにも叩きのめされるのか…そう思うと泣けてきた。もうゴルフなんてやめてしまおう、とまで思い詰めた」

 鈴木の妻、京子さんは、女子プロゴルファーだ。ツアーのことがよくわかるだけに、良き相談相手、また、いつでも気がねなくグチを言える相手でもあった。でも、このときばかりはこんな姿を見せたくないと、鈴木は京子さんのいないときに、こっそりと、声を上げて泣いたそうだ。

 それでも翌日には、尊敬する先輩・中嶋常幸が主催するプロアマトーナメントに出ることになっていた。気はまったく乗らなかったが「約束だから」と暗い気持ちのまま出かけていった鈴木、スタート前、練習場で、無心に球を打つうちに、自分の本心に気が付いたという。

 「俺は本当に、ゴルフが好きだ」
 途端に肩から力が抜けた。

 「球を打っているうちにね、泣いても怒っても、やっぱりゴルフはやめられないとわかったんです。ゴルフが好きで好きでこの道を進んだのに、今ここでやめたら、一生後悔する。もう1回、気持ちを入れ替えてやりとおそう…なぜかそう、自然に思えたんですね」

 鈴木はそのあと、すぐに好成績を挙げはじめた。フィリップモリスで4位、住友VISA 太平洋でも4位。

 そして、今週。会場入りする前に、鈴木は京子夫人にこう宣言している。
 「今週はきっと勝つよ―」

 勝てなかった2年と5か月。 「借金のこともあるし、僕はいつも悩んでばかりいる・・・勝てなかった時間、一番つらかったのは、本当は女房なんですよね」

 最愛の妻との約束を果すことで、鈴木は、つらかった年月にピリオドを打ったのだ。

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