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日本オープンゴルフ選手権競技 2000

「林さんがいたから、腹のすわったゴルフができた」

尾崎直道を最後まで苦しめたのは、「思わぬ敵」
台湾の林根基だった

 最後に、わずか20センチのボギーパットを沈め、
「林(りん)さんが、パーであがってたら、僕だってパーであがれていたよ」
と言って直道は、照れたように笑った。

 最終日は2位と田中秀道と2打差をつけてのスタート。

 「一昨年前のこともあるし、今日はずっと秀ちゃんとの1対1の対決になると思っていた」

 ところが、その田中は、2番でアプローチでラフを渡り歩くミスで、ダブルボギー。
 9番では1メートルのパーパットをはずし、直道との差はジリジリと開いていった。

 その田中のかわりに、直道の前に突如として立ちはだかったのが、台湾の林根基(りんこんき)。

 直道と5打差の4位からのスタートだった林は11、12番で連続バーディを奪うと、14 番では手前5メートルを沈めて通算3アンダー。直道に1打差と迫ったのだった。

 「秀ちゃんがズルズルと後退して、秀ちゃんのほかには、もう上がってくる人なんていないと思っていた。その矢先に、林さんがポンポンポンとあがってきて、あれには少しがっかりした。またひとり、敵が増えたな、ってね」

 林は、直道のいる最終組より2つ前の組だった。
 後半は、見えない敵との戦いになった。
 直道は、1ホールごとに林のスコアボードを確認した。

 「ボードを見ていると、林さんの名前がだんだん上がってくるんだよ。あれは計算外だった。
 正直言って、林さんが、難しいあがりの15番、16番、17番あたりでコロっと落としてくれないかな、とも内心考えたりした。
 17番をホールアウトしてからも林さんの数字が下がらないかと、一生懸命、ボードを見ていた。そしたらね、その瞬間、『3』が『2』になったんですよ!!
 それは、18番のティショットを打つ前のことでした」

 林は、最終18番で第2打をグリーン左の深いラフに打ちこみ、ボギーであがっていたのだ。直道との差は2つ。
 「それで気が楽になった」と直道。

 ほぼ勝利を確信して打った、ラスト18番の直道のティショットは、コース左のセミラフに落ちた。
 さらに確信は深まった。
 第2打は、グリーン手前のカラー。
 そこからのアプローチは寄せきれず、ピン手前4メートル。
 パーパットも、20センチ手前でショートして、ウィニングパットは照れ笑いを浮かべながら、決めた。

 「18番、林さんがパーだったなら、僕もパーで上がれていたよ(笑)。
 …18番は、ティショットがラフに入ってなかったことで、『まあ、ここはボギーでいいだろう』なんて思っちゃってね。そう思った瞬間、パーを取る気力がなくなった。スタミナ切れだよ(苦笑)。
 去年の最終ホールはパーパットを入れたけど、去年より今年のほうが疲れている。
 去年は最初、バタバタっと崩れて、そのあとまた逆転して、ようやく14番あたりで1打1打に集中しはじめたという感じだったんだ。
 でも今日は、最初から最後まで、1打1打、1ホール1ホールに、気持ちが乗っていたからね。
 一時は秀ちゃんと5打差ついたわけだけれど『こんなんで終わるはずがない』とは、思っていたんだ。
 このあと、必ずまた、苦しいのが来るって、わかっていた。
 それはきっと、自分がこけて落ちていくんだろう、と。だから、インコースに入っても、いかにパーを拾っていくか、という意識が強かった。

 それが、まさか林さんが来るとはね…。予想もしなかった。
 林さんがいつ、ボギーを打ってくれるだろう、なんて思っていたらいっこうに、打ってくれなくて。これはもう試練だと思いました。
 …でも、今考えると、どうだろう。もし、林さんがいなかったら、どうなっていただろう。今日のようなゴルフができただろうか。
 林さんが、ボードで少しずつ上がってくるのがわかったから、自分もパーを取ることに集中できた集中できたのかもしれません。林さんがいたから、久々に、こんな腹のすわったゴルフができたんだ、と思いますね」

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