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ゴルフ日本シリーズJTカップ 1999

伊沢利光、独走態勢に入る

通算10アンダーで迎えた18番パー3。3メートルのパーパットを3パットし、ダブルボギーで3日目を終了しても、伊沢に腐る素振りは見られなかった。

「差は一杯あったほうがいい。10アンダーのまま終われればそれに越したことはないけれど、でもしょうがないじゃないですか」といっておだやかに笑った。

3日目が終わって、伊沢が4打差トップと知った尾崎直道は、「あ〜もうイーさん(伊沢の愛称)の勝ちだ」と決めてかかった。

尾崎だけではない。

「イーさんは今、絶好調だから…」と、他の選手も半ば、さじを投げる。

7月のアイフルカップで今季初Vを飾ると、翌週のNST新潟オープンでは6打差をつけて2連勝。また、今季出場27試合中トップ10入り11回。部門別ランキングは平均ストローク(69,82ストローク)、パーキープ率(89,90%)はともに2位。

今季開幕から今大会3日目までに奪ったバーディ数は364個、イーグル数は11個で、いずれも奪取数は1位(参考記録)。

さらにドライビングディスタンスも、ここまで平均飛距離287,07ヤードを記録してトップだ。

ショットと小技の両方にたけた伊沢のそつのないプレーには、選手の間からも感嘆の声があがる。だからこそ4打差の首位に、「もうイーさんの勝ちだろう」という言葉が出てくる。

まるで、暗黙の了解のような今大会最終日の伊沢の優勝。もっとも、本人から出てくる言葉は「別に何も考えてないです」の一点張りだ。

「きょうのこの位置でも、別に優勝とか意識してないです」

「ゴルフの内容は昨日も今日も別に変わってません」

「明日いくつくらいで回るつもりか?

何も考えてませんね」

「明日は2位の細川君(通算4アンダー)と一緒?…別に誰とまわっても気持ちは同じです」

「2位との差はいっぱいあったほうがいいですけど、別に深く考えてないですね」

3年間伊沢のキャディを務め、人柄を良く知る前村直昭さん(31歳)は言う。

「伊沢さんが怒ったところってこれまで、あんまり見たことないです。きょうの18番も『ア〜ああ』って感じだったし…。

優勝がかかった場面でも、特に入れこむわけでもない。いつも変わらず淡々としています。あの気負いのなさが、伊沢さんの強さを支えているのは間違いないと思う。

3年間の見てきた中で、今の伊沢さんの調子は最高の状態。見ていて安心できるゴルフをしている。

決して口に出して言わないけれど、きっと本人の心の中も、自信に満ち溢れていると思います」

激しく闘志をむき出すわけではない。だが、伊沢がひたすら淡々とプレーを続けるほど、周囲に与える重圧は大きいのだ。

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