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アジアパシフィックオープンゴルフチャンピオンシップ ダイヤモンドカップゴルフ 2019

母の日の親孝行。浅地洋佑が願ってもない初V

5月12日は"母の日"。親孝行を切望していた25歳が最高の恩返しを実現させた。
プロ8年目の浅地洋佑(あさぢようすけ)が日本とアジアの共催で、悲願の初優勝を飾った。
1打差首位から出た最終日は海外勢にまみれてV争い。
「みなさんの応援がなければ今日もない。ギャラリーの9割が、僕を応援してくださった」と感謝した。

通算アンダーパーがわずか5人というシビアな戦いも、"ホーム"での大混戦が追い風になった。
2017年にイップスにかかったパット。しかし「なぜか今日は手が動いた」。
度重なるピンチにも耐えてこの日は1パットパーが実に10回。
14番では、6メートルのフックラインをしのいだ。
バンカーに入れた16番ではOKパーを拾った。
「今日はバンカーでもラフからでも、全部59度のウェッジを使った」。
1打差の首位を守って迎えた18番が、この日の集大成になった。

奥のバンカーからみごとに脱出した2メートルのパーパットは「手が震えるというより手の感覚がない。ワケわかんなかった」。
最後の試練がカップに沈むと母が妻が、ワっと泣いた。

初出場のこの大会で9位に入ったのは杉並学院高校2年時の2010年。
その才能には、先輩の石川遼も一目置いた。
11年にプロ入りして、すぐ翌年には初シード入り。
「18歳でプロになり、すぐ優勝できるくらいに本人は思ってた」とは母親の伸子さん。
「でも、そんな甘いものではありませんでした」。

勝てないどころか2013年にはわずか1年で、シード権を手放し思い知った高い壁。
「プロはみんなうまい。アマで良い順位に入ったのはたまたま。毎週試合をしたら、絶対に通用しない」(浅地)。
出場権すら持てずにいた年には、生活も荒れた。
「社会人のくせに、自分で稼ぐこともできない。ゴルフも最悪」。
その間に、時松や川村など同期の選手が次々と初優勝を飾った。
不甲斐ない自分。
酒に頼ったこともある。
「僕は、父親の顔を知らない。片親で、ずっと僕を育ててくれた」。
6歳からゴルフを始め、小4時には練習場近くに引っ越すなど女手一つで、最高の環境を与えてくれた。
そんな母にすら当たってある時「もうゴルフはやめる」。
でも伸子さんは「やめたければどうぞ。あんたみたいなのがどこでも働けるわけない」。
あのとき、母にきつく言ってもらえてよかった。
「苦しかった。本当によく頑張った。崩れずに良く耐えた。ゴルフをやめなくて本当によかった」と母にも感謝し足りない。
今週は、6日月曜日の予選会から勝ち上がり、夢中でたどり着いた頂点は、史上6人目の"マンデーV"(※)。
「こんなにうれしいことがあるのか、と」。
待ち構えた大勢の仲間たちの水シャワーに迷わず身をゆだねていった。

「どうしようもない息子だったと思う」と自省する一人息子が、伸子さんの前に彼女を連れてきたのは2年前だ。
保育士をしていた智子さんと、昨8月には結婚するとの報告を受けた時には「明るくて可愛らしくて。私、女の子が欲しかったので。娘ができたみたいで嬉しかった」と母も手放しで喜んだその年、息子は賞金ランク56位でシード権の完全復帰を果たすのだ。

オフにはかいがいしく世話を焼き、息子が転戦で留守の間は母親の自分を食事や観劇に連れ出してくれる。
「彼女は、ただ可愛らしいだけのお嬢さんではありませんでした」と母の日に、可憐な嫁の隣で姑(しゅうとめ)はしみじみ。
「しっかりしたお嫁さんをもらって息子は人間的に大きく成長しました。今日は、私に一生分のプレゼントをくれた」。

今年から、今大会の勝者に7月の全英オープン(ロイヤルポートラッシュGC・北アイルランド、7月18−21日)の出場権が付与されて、メジャーの初切符を手にした息子は「おふくろをイギリスに連れていく」と、張り切っている。
「幸せです」と噛みしめながら、初めての息子のVスピーチを聞いてふと眉をしかめた母。
「…この1勝に懲りずに2勝、3勝と頑張って………」(浅地)。
「『懲りずに』って何よ」と、伸子さん。
「何に懲りたの? 勝ったのが、悪いことみたいじゃないの」と、母親のため息ひとつ。
「もう、あの子は…言葉がまだまだ」。
そんなグリーンサイドの母の小言も知らずに「今日は人生で、一番美味しいお酒が一緒に飲める」と、息子は無邪気に万歳した。

※マンデートーナメントから出てツアー優勝した選手
佐藤昌一(現・正一) 1979年フジサンケイクラシック
三上法夫 1979年日本国土計画サマーズ
ブライアン・ジョーンズ 1985年三菱ギャラントーナメント
井上信 2004年ABCチャンピオンシップ
小山内護 2010年セガサミーカップ
浅地洋佑 2019年アジアパシフィック ダイヤモンドカップ

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