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トップ杯東海クラシック 2016

片岡大育が名古屋でリベンジのV2

今度こそ、勝って泣いた。最終日最終組で戦ったのは、「実力100%の強い先輩」。目下、賞金1位と3位を退け「嬉しすぎる」と泣き腫らした。中盤に谷原を引き離すと、最後は池田との一騎打ち。互いに一歩も引かないデッドヒートは、並んで迎えた18番で、最後の最後に振り切った。
フェアウェイから6番アイアンを持った179ヤードの2打目は、「左に逃げても難しいパットが残る」と、右の池の淵に立つピンをめがけて果敢に「最高のショットでした」。左からの風を計算して自分では、やや保険をかけて打ったつもりのフェードボールは、「本当はもう少し左を狙ったんですけど」。もう2ヤードも誤れば、池に落ちていた。「一瞬ヒヤリとしたけど右サイドに“かじって”くれた」と幸いに、ここ最近の長雨で、グリーンが湿っていたおかげで右横4メートルにぴたりと止まった。

右のラフから乗せられず、左手前から寄せきれず、池田が先にボギーにして、いよいよバーディパットを打つ前から、伊能恵子キャディがもう涙目。「この人、ちょっと気が早いよ!」。
笑っていたのもつかの間、本人にもそんな余裕はなくなった。
「泣くつもりはなかった」と、声を震わせたインタビュー。
伊能さんと青山充コーチと、苦楽を共にしてきた恩人らと歓喜の抱擁で「やっぱりちょっと来ましたね」。

あのときも、泣くつもりはなかった。金庚泰 (キムキョンテ)にプレーオフで敗れて大泣きしたのは5月、名古屋の中日クラウンズ。
「あの悔しさを、体のどこかで忘れてなくて」。
和合の17番パー3のダブルボギーでみすみす敵に隙を与えた後悔を、実は2人で引きずっていた。
2002年から始めて岡本綾子さんや古閑美保さん、男子なら宮本ら計8勝のキャリアを残して、いったんバッグを置いた伊能さん。
キャディ業は約5年のブランクを経て、6年前に再びこの世界に引き戻したのが片岡だ。
2年前に、2人で出向いたアジアンツアーで2戦続けてトップ10に味をしめ、まず1年間の約束でタッグを組んだ2015年。
でもツアー初Vの関西オープンは、たまたま別の仕事で伊能さんはいなかった。いっそ「勝つまで一緒にやろう」と、今年も誘った。
「大ちゃんの、強い気持ちと何より人柄が大好きだから」と、受けてくれた。
この日も楽しい会話で緊張をほぐしてくれた。V争い時の話題はもっぱら「伊能さんの“デカいネタ”」。
176センチの長身は、片岡よりも9センチも高くて女性なら、本当は一番言われたくない話題も、自ら道化になって楽しませてくれる。

そんな伊能さんが「自分が担いでいるから勝てないかもしれない」と、実はずっと気に病んでいたのを片岡も知っていた。
「伊能さんのためにも、早く勝ちたかった」。
この日はそばでうるさいくらいに言われた。
「大ちゃんは、緊張すると遅くなる。テンポだよ。ミスしたら、一歩引いて。ダブルボギーは打たないように」。
この日、選んだ紺のウェアはあの日、庚泰 (キョンテ)が着ていたのと同じ色。
あの冷静さを見習いたかった。
グリーン上でミスしても、「それ以上に今日はティーショットが安定していた」。
伊能さんとの決めごとも、守り通せた。いつも笑顔の献身にもやっと応えた。
4月の和合(中日クラウンズ)では、笑ってくれなかった。「三好の神様は、やっと僕らに微笑んだ」。
因縁の名古屋で、一緒にあの借りも返せた。
「僕にとっては“ねえさん”ですね」。伊能さんこそ、勝利の女神。
このコンビで悲願成就のあかつきには、必ずやると報道陣に約束していた。公約実現の伊能さんによる姫抱っこ。
揃って涙、涙のVシーンも2人であっという間に笑いに変えた。

地元高知の銘酒「酔鯨(すいげい)」のロゴマークをキャップにつけて戦う酒豪は、この夏休みのよさこい祭りでスポンサーの神輿に乗って、4人ほどで二升半を空けた。
酒と一緒に食事も進む。
調子に乗った翌日は、胃腸がもたれて試合中には成績にも響くことが多かった。
自戒をこめて、酒を控えた途端に好結果が続いた。
今週も、とっておきの名古屋メシは最終日までお預けだったが今日こそは、伊能さんと仲良く味仙(みせん)にレッツゴー!!
老舗の台湾料理店では名物のコブクロも、久しぶりにビールも呑むが「今年はまだ2勝、3勝とするというのなら、今日も呑んでも2杯まで」。まだ終わらない。いよいよ本格シーズンはこれから。必勝祈願の禁酒は続く。

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