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〜全英への道〜ミズノオープン 2025

「めっちゃいい人」ゴルフ界のミッキーこと阿久津未来也の初Vへの道

恒例の勝者の儀式で、阿久津未来也(あくつ・みきや)がいなかった試合を見つけるほうが難しい。
先輩・後輩、国問わず、いつも率先して仲間を祝福してきた。自分がどんなに悔しい時でも必ず相手を称え続けてきた選手が、いま水シャワーの渦中にいる。

待ち構える仲間たちの姿は18番で3打目をグリーンに乗せたときから見えていた。
「そこでうるっと来ましたけど。滝のように水を浴びて引っ込んだ。幸せでした」。




冷たさに、いったん引いた涙がまたジワリと来たのは、昨年覇者の顔を見つけた時。
木下稜介(きのした・りょうすけ)は共に「堀川未来夢チャンネル」で“準レギュラー”をつとめる練習仲間。


もちろん、昨年は木下にもお水をかけた。
「ディフェンディングチャンピオンだし、いつもお世話になってる先輩。水かけの輪にいてくださったのが嬉しくて。苦しかった大会で、ひとついい思い出ができました」。
声を震わせ感極まった。



最終日を1打差の単独トップで迎えたが、「思いのほか手が震えるとかいうこともなく」。気持ちは冷静でも、2日続きの強風で「息つく間もない」。

1打に集中しながら、7番で嫌でもスコアボードが目に入った。
「他も伸びていない。前半、ひとつでも伸ばせれば」。
9番で、手前5メートルのバーディパットが決まった。「ひとつ気持ちが入った」と、ガッツポーズが出た。


4打リードで入ったバックナインは先週から投入した「人生2度目のL字パター」にものを言わせて怒涛のスーパーセーブ。
特に、5メートルを拾った12番は今週、キャディをしてくれた女子プロの田辺ひかりさんも「これ入ったら決まり」と、ひそかに勝利を確信したクラッチパットに。

「またひとつ、ギアを上げられた」と、
その後も15番で2.5メートルをしのぎ、16番では2メートルを落とさず、17番で「やっと打てた」と、3メートルのバーディチャンスを沈めて4打差。
強風が猛威を振るう日本屈指のリンクスコースで飾ったプロ10年目の初優勝で、「よしゃー!」と絶叫。「全英オープン」の出場権も手に入れ、「ただただ嬉しくて…。感情が忙しい」と、涙がにじんだ。



今年30歳。
オフにイベントで呼ばれるたびに「今年は1勝じゃなく、2勝します」と、自ら背水の陣を敷いて歩いた。

「初優勝したからゴール、ではなくて。スタートラインに立てた気持ちが大きい」と、勝ったからこそ背筋を伸ばし、開催地の英雄マキロイを"さん付け”し、「雰囲気にのまれると思うんですけど、選手として行くからにはギャラリーになってはいけない。日本を代表し、地に足つけて頑張りたい」。

北アイルランドのロイヤルポートラッシュで迎えることになった初メジャーへの抱負も律儀な人柄がにじみ出る。

V会見で「これ、大事です」と自ら切り出し、けさ励ましのラインをくれたという母校・日大のレジェンド片山晋呉(かたやま・しんご)への感謝も忘れず伝えた。
180センチの長身で、すらりと着こなす最終日の“マスターバニー”はもちろん、本大会を主催するミズノの企業カラーを意識してのチョイスだ。


選手会で今年から始めた記念品贈呈で、水野社長に直接お礼もお伝えできました


もの心つくころからクラブを握り、地元・栃木の作新学院高校は、ゴルフ特待でも入学できたが、あえて難関の特進コースを選んで受験。
文武両方で好成績を収めて日大に進学すると、すでに3年時に全単位を修得。後輩のリポート提出も手助けした。

4年時に「日本学生」を制覇し、2016年にプロ入り。その後も規律を守り、期間中も毎日、ジャケット姿でクラブハウスを入退場するなど“エチケットリーダー”としても一目置かれる。

昨年の選手会理事改選では「自分が携わっている世界でお手伝いできることがあれば」と、自分に投票。互選で副会長に就任した。
「任命して頂いた以上、シードは維持しなければ」と、シード4季目の昨季は自己最高の21位で保持した。
2期の任期満了を迎える今季、初Vでみごと、両立を果たした。


3年前から師事するドラコンプロ、山崎泰宏さんと構築してきた「ツアーで勝てるスイングづくり」が実った。
共に、全英切符を得たヨンハンも「めっちゃいい人」と認める好青年が、ついに悲願を達成した。

Vスピーチの締めでも、「僕だけじゃなくて、男子ツアーへの応援をよろしくお願いします」と、心がこもった。
愛称は、未来也(みきや)をもじって「ミッキー」。
一昨年賞金王の中島啓太(なかじま・けいた)も、ジュニア期から「パターの師匠でお兄さん」と慕っていたそうだ。
ゴルフ界のミッキーは、夢の国に住むネズミさんにも負けないほどみんなに好かれている。


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