記事

ISPSハンダマッチプレー選手権(3回戦〜決勝) 2017

44歳の片山晋呉が最年長のマッチ王者に

通算129ホール目こそ、劇的にキメた。獲れば勝利の16番で、フェアウェイから5番のユーティリティを握った2打目は、残り209ヤード。
ピン右1.5メートルを捕らえた。
長尺パターでイーグルチャンスをねじ込んだ。
空を仰ぎ、膝から落ちた。両手をグーにしたまま顔を覆い、倒れ込み、ぐにゃりとグリーンにひれ伏したまま、両手の平でペシペシと地面を叩いた。

敗者に引っ張り起こしてもらって、やっと立てた。
ぐるりとグリーンを囲んだギャラリーに、ハイタッチをして回った。途中で、母親の姿を見つけてまた感極まった。

44歳と7ヶ月10日は2003年まで行われた日本プロマッチプレーで77年大会を制した43歳と25日の橘田規(きったただし)氏を抜いて、最年長のマッチ王者の誕生である。

ツアーで14年ぶりに復活したマッチプレーは先月の1、2回戦から合わせて計7日間の長丁場を戦い抜いた。
「回復力が違う。若い人が有利なことは間違いない」と断言しながら総勢104人の巨大やぐらの頂きに立って、「男と男の魂のぶつかり合い。互いに一歩も引かない戦いが出来た。44歳でも若い選手と1対1で戦えたのは幸せだった」。

マッチプレーはどのホールで決着がつくか分からない。日に日に選手も減って、テレビ中継の難しさや、追いかけるギャラリーの観戦しづらさなど課題も多くてツアー競技から、長く外されたままだった。

それでも1対1の真剣勝負は必ず選手のレベル向上に役立つとの信念で、開催に踏み切った大会主催の国際スポーツ振興協会(ISPS)の半田晴久・会長の思いには、片山も大いに共感するものがある。

4年前には片山もネスレの協力を得て、自らの名を冠したツアー外競技のマッチプレーを開いて、若い選手たちを招待してきたが、そこでは力を発揮しきれずにいた。
今年は決勝まで行った小平に、片山は2回戦でまた敗退して反省を重ねた。
「マッチプレーは、相手が自分の最上級の技を引き出してくれることもある。自分を確実に成長させてくれる」との確信で、ツアー競技として復活した今大会にかける思いは並々ならず、開催前から会場の浜野ゴルフ俱楽部を何度も下見するなど、準備は万全だった。

対戦相手の研究も完璧だった。
先週のフジサンケイクラシックを制したリューは、確かに勢いがあったが前日の準決勝で敗れた高山に、事前に「長いパットが凄く入っている」と聞けば、「2日連続でボコボコ入ることはそうない。まず自分のボギーでダウンしないこと」。
作戦どおりに1ホールたりとも負けを許さず、頂上まで登りきった。

5度の賞金王に輝き、永久シードの称号も手に入れてもなお飽き足らずに「スイングもメンタルも、新しい自分を見つけたい」とこの夏からメンタルトレーニングに取り組み、スイング改造に着手。
「クラブとボールの進化でゴルフのスイングは、この5年で100年の歴史が覆されるくらいに変わった。今の流行を、自分も取り入れなくてはいけない」と目下、賞金1位の飛ばし屋のチャン・キムを見習う貪欲さで、選手間でも評判になるほど、ドライバーも飛ぶようになった。
プロ22年目にして「自分にも、まだ伸びしろはある」と言い切る若々しさで、自身プロ初のマッチタイトルを新たな勝ち星として積み上げた。

優勝賞金5000万円を加えて前週の70位から、一気に賞金ランクは4位に浮上。
これから秋の陣。「手応えはある、また勝てる。円熟したプレーが出来る期待がいま自分に凄くある」。
前に20、30、40代と、全世代で賞金王になることが目標だと語っていた。
1回戦から数えて計7マッチとも、どれも記憶に残るVシーンを演じ続けた。
まだまだ進化を続ける44歳が、シーズン最後にこそ自身6度目の頂点に立つのも夢じゃない。

関連記事