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アジアはリベンジならず……

リャンはハンソンにまさかの大敗。4番から怒濤の9ダウンを食らい、「気合の入れようは半端ではなかった」と息を吐くしかなかった
ジョーこと尾崎直道が毎年新年早々から思うのは、「プロ野球の監督って、よくノイローゼにならないな」ということだ。今年5回目を迎えたアジア対欧州の対抗戦「ザ・ロイヤルトロフィ」で、直道がキャプテンをつとめて4回目。

何年やっても慣れるということがない。むしろ悩みは深まるばかりだ。今年も正月返上で予習、復習を重ねたが、いざ大会が始まると、反省の夜が続いた。
「どんなにベストを尽くしたと思っても、あとから後悔ばかりがつきまう」と、苦しそうに吐き出した。

まして2年連続の逆転負けを喫した今年は、2日目を終えて我らがアジアが4ポイントもリードしていたから、なおさら堪える。
「油断した、というわけではない」。欧州チームの怖さは、嫌というほど知っている。「攻撃力と、マッチの強さ」。どんなに差をつけていようと最終日こそ、苦しい戦いになることは予想していた。覚悟は出来ていたのだ。

それでも、こうも鮮やかにしてやられるとは。
「楽に勝てるとは思わなかったけれど、負けるとも思わなかった。最後はみんなで笑えるんじゃないか、と思っていたんだけれど……」。

9日(日)に行われた最終日のシングルスは、2分6敗。前日の借りを、倍にして返された。アジアはとうとう1勝も出来ないまま、7&6で今年も苦杯をなめた。王冠の奪還に失敗した。
しかし言い訳はしなかった。「こういう負け方は、キャプテンが背負わなければいけない。責任を感じています」と、潔く頭を下げたキャプテン・ジョー。
そして対する欧州キャプテンには男らしく、最高の賛辞を送った。

「モンティ、君はグレイト・キャプテン、そしてグレイト・プレイヤーだよ」。

コリン・モンゴメリーが、自らも戦う“闘将”に対して、アジアのノンプレーイングキャプテンは、今年も灼熱の太陽の下、コースを縦横無尽に動き回った。

54歳。今も米シニアのチャンピオンツアーで精力的に海を渡りながら、「それでも近ごろじゃ自分のプレーでも、これほど熱くなれることはないよ」と、苦笑する。選手以上に大きなアクションで拳を握り、声を張り上げ、メンバーを鼓舞して歩いた。

最終日は、しょっぱなから苦戦が続いていた。初日から2日連続の圧勝を飾り、3日連続の先陣を任された中国のWリャンが、ピーター・ハンソンに7&6でまさかの大敗を喫してから、雲行きは一気に怪しくなった。
リャンが言う。「ハンソンの気合いの入れようは、半端ではなかった」。前日の4戦全敗が、欧州チームのプライドに火をつけてしまったと、気が付いても時すでに遅しだった。

石川遼はこの日、3度の池ポチャ。「ドライバーが曲がりすぎた」と、パットの名手リス・デービスに、4&2で破れるなど、他の組でもズルズルと負けが込み、前日の圧勝ムードもあっという間に消えて、いよいよ勝負の行方は、残りの2マッチに託された。

7組目のジーブ・ミルカ・シンと、最終マッチのトンチャイ・ジェイディのいずれかが、最低でも引き分けの0.5ポイントと、1勝を持ち帰ればプレーオフには持ち込める。

すでにゲームを終えた選手たちは、自分の悔しさはさておき、手分けして2組の応援に回った。直道とともに、歓声をあげながらコースを駆け回った。キャプテンとメンバー6人の応援を一身に受けて、2戦士は大いに奮闘した。ジーブは15番でオールスクエアに持ち込んでパブロ・マルティンにしぶとく食い下がり、トンチャイは16番で、ヨハン・エドフォルスに土壇場の逆転で1アップ。

ますます色めき立ったメンバーたち。
2年連続の大接戦に、直道が嬉々として叫んだ。「お前らは、本当に毎年、俺を楽しませてくれるよ!」。
これぞ、チーム戦の醍醐味だ。
自分以外のプレーに喜んだり、悔しがったり、心躍らせること。他の誰かのために、全力を尽くすこと。その中から自然と生まれる確かな絆。勝った負けたという以前より、もっと大事なこと。

今年、初の代表入りをした池田勇太が、じっと戦況を見守りながらつぶやく。「普段めったに話さない国の選手とも仲良くなれた。ジーブやトンチャイとも内容の濃い話しが出来た1週間。こんなに楽しいのは久しぶりだよ」。

結局、ジーブがゲーム全体としても、まさに“ドーミーホール(※)”の18番で、パブロ・マルティンにピンそばのバーディを取られて敗れ、欧州の連覇が決まった。
プレーオフ要員として、準備をしかけていた石川と盧承烈(ノスンヨル)の出番もついに来なかった。

それでもメンバー全員で、最後の善戦を繰り広げていたトンチャイの組を拍手で出迎えた。今度はみんなで声を揃えて張り上げた。
「トンチャイ、ナイスプレー!!」。
地元タイの英雄は、満面の笑みで応えた。ほか7戦士の笑顔も負けてなお、爽やかだった。

深刻な腰痛を抱えながらも渾身のエントリーで、最後まで全力で戦い抜いたジーブが言う。「チームは負けたけど、みんなでベストを尽くしたから悔いはない」。
そんなメンバーたちを見つめるキャプテン・ジョーの笑顔も深くなる。これだから、やめられない。「もう来年はしんどいかなあ……と、思っています」と毎年一応は、終了後の会見で翌年のキャプテン交代をほのめかしながらもやっぱりまた、1年後に直道がここに帰ってくるのは、この大会には生みの苦しみを背負うだけの価値があるからにほかならない。

※(負けている方が勝たなければ勝敗が決まるホール)

  • 石川も、リスに敗退。「今日はトライバーがすべて。フェアウェイキープの大切さを思い知った」という。
  • 地元タイの英雄トンチャイは、最終マッチでメンバー全員に出迎えられて、笑顔の帰還。オールスクエアでポイントをゲットしたが…
  • ゲームが終わった者から、自分の悔しさそっちのけで、2人の応援にと精力的にかけ回った精鋭たち
  • 腰痛を押して出場したジーブ。「彼が日に日に良いゲームをしてくれたのが嬉しかった」とジョー

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