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The Championship by LEXUS 2009

武藤俊憲が逆転のツアー通算3勝目!

18番で1メートルのバーディパットを沈め、ひとつ後ろの最終組で回る金との3打差に勝利を確信。思わず握ったガッツポーズ。さらに満員の客席にウィニングボールを投げ込もうとして、ふと我に返った。まだプレー中の選手を気遣って、寸前で思いとどまる。ギャラリーのどよめきを、慌てて制する姿に人柄が滲み出た。

契約を結んで2年になる小林宏平トレーナーが、「物言わぬ侍」と表現したように、普段から物静かで、どんな目標もいつも胸に秘めたまま。ただ黙々と努力を続ける。そんな選手だ。

だが今回は違った。日本が世界に誇る最高級車「LEXUS(レクサス)」をその名に冠する今大会は、昨年の第1回からはっきりと「勝ちたい」と口にしていた。

2006年のツアー初優勝で購入した初めてのレクサスは、オフに自ら洗車するほど。

また所属コースの赤城カントリー倶楽部では、メンバーさんや従業員のみなさんに、その乗り心地の良さを散々自慢して歩いたものだから、ついにはコースの駐車場がレクサスだらけになったほど。

そして今週は、知人が新しいレクサスを発注したと聞いて、ますます発奮。今大会の優勝副賞のハイブリット車「LEXUS RX450h」は、あまりの人気にいま予約をしても、納車は半年先だという。今から待ちわびる知人に思わずこう言っていた。

「僕が先にその新車を手に入れてみせますよ」。

いつもは「不言実行」の男が珍しく、有言実行のツアー通算3勝目。それほどまでに欲しかったこのタイトルだった。

2打差の3位タイからスタートした最終日はリーダーの丸山茂樹と組が離れたことに救われたと武藤は言った。
前日3日目の最終組で、初めて同じ組で回って独特のオーラに圧倒された。
「昨日は丸山さんに、やる前から負けていたと思う。今日も一緒なら、自分のプレーが出来たか分からない」と本人は密かに胸をなで下ろしたが、その丸山はホールアウト後に「今日は出来るなら、武藤くんと回りたかった」と残念そうに言った。

昨年、米ツアーから久しぶりに帰国してすぐに、丸山が目をつけた選手の一人が武藤だった。
練習場で「見ていていい?」とことわって、しばらく後ろから練習を見ていた丸山は、去り際にポツリと、「武藤くんはとても良いショットを打つ。これからまだまだ強くなる」。

特に、丸山もべた褒めしたドライバーショットは先週からますます絶好調で、「打てばフェアウェーに」。
アイアンはピンを刺し、残る課題は3日目にも手こずったグリーン上だけだった。
「これまでも、勝てなかった試合はすべてパットで苦しんできた」との反省からホールアウト後は1時間も練習グリーンに腰を据え、あえて悪いライを選んで延々と、ボールを転がし続けた。

カップに背中を向けて打つくらいにフックした13番の9メートルも、14番で6メートルのスライスラインも「そのおかげで入ってくれたと思う」。勝負どころの連続バーディで、ついに逆転。ついにひとつもボギーを叩かず、大会&自己ベストタイの64は世界のマルも認める完璧な内容で、最後は余裕のゴールを切った。

表彰式で、2年越しに受け取った最新のリモコン型のゴールデンキー。待ちきれなくて、つい自ら手が伸びた。しっかりと両腕に抱いて満面の笑み。
「レクサスオーナーとして、この場に立てて光栄です。主催者のみなさんに本当に感謝したい」。
溢れんばかりの喜びに、物言わぬ侍も饒舌になった。

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