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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2008

2008年最強の男はインドのジーブ・ミルカ・シン

慟哭の中にあっても培われた集中力は、最後まで途切れることはなかった
大会直前に彼の身に起きた不幸を知る関係者は、誰もが彼の登場に仰天した。きっとこの日本ツアー最終戦は欠場するだろうと、また、そうしたほうが彼のためになるだろうと、思っていたからだ。

しかしそれでも彼は、東京・よみうりにやってきた。
そしていきなり初日に2位タイにつけたから、みな2度仰天。
彼の精神力の強さに改めて脱帽したものだ。

2月の欧州ツアー「バンク・オーストリア・ゴルフオープン」で今季初優勝をあげると、4月にはマスターズに挑戦。
11月にはアジアンツアーの「バークレイズシンガポールオープン」で、アーニー・エルスやパドレイグ・ハリントンら世界の強豪を倒して下して逆転優勝を果たした。

2006年に続く自身2度目のアジアンツアー賞金王を不動のものとし、今年は最高の年となるはずだった。

幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされたのは、開幕直前の2日火曜日。
今年1月に結婚したばかりの最愛の妻クドラさんが、待望の第一子を流産した。

妊娠20週目の赤ちゃんは、お腹の中で死亡していたという。
一報を聞いて、泣き崩れた夫。

その背中を強く押したのは、他でもないクドラ夫人だった。
「亡くなった赤ちゃんのためにもゴルフをしてきて」。
ジーブが振り返る。
「妻のあの言葉がなかったら、今日という日もなかっただろう」。

幸い、クドラ夫人の母親と姉がきゅうきょインドから駆けつけ寝ずの看病をしてくれた。
またインド大使のご厚意で、退院した妻は夫妻の自宅に身を寄せて、夫も驚く回復力を見せてくれた。
本来なら「集中など出来るはずもない」状況で、悲しみも癒えないままただ一心にクラブを振るうちに夫も悟った。
「人生は、何が起ころうとも前に進むしかない」。

悲しみを堪えて戦う姿こそ、傷心の夫人への何よりのメッセージとなった。

「妻には、早く元気になって前向きに生きていればきっとまた神様が守ってくれると伝えたい。この試合こそ、また新しいスタートだ」とジーブは言った。

そして、首位と2打差の12アンダーで逃げ切った2008年最強の男は優勝スピーチの第一声で、「この優勝を妻に捧げたい」。
てらいのない愛の言葉に、またひとつ強さを増した姿があった。


  • プロキャディのジャネットさんは、気落ちしがちなシンに常に何かしら話しかけ、励まし続けてくれたという
  • 最終日には、今回何かと力になってくださったインド大使夫妻も応援に! 偶然にも同じ名字のシン夫妻は大のゴルフ愛好家とか…

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