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日本ゴルフツアー選手権イーヤマカップ 2002

「実は内心、すごく怖かった」

 賭けに勝った佐藤信人のコーチ、井上透さん
 前日3日目。
 17番で、佐藤が大シャンクさせたシーンを、テレビで見ていた井上透コーチは、慌てて電話を取り上げた。
 かけた先は、井上さんが受け持っているジュニアレッスン教室。
 翌日曜日がその日だったが、キャンセルしたい旨を、伝えるためだった。
 「試合が終わったら、すぐに佐藤さんから電話がかかってくるだろう、と判断したんです。で、明日はきっと、会場に行かないといけなくなるだろう、と」
 案の定、断りの電話中に佐藤からのキャッチフォン。
 練習日に、インパクトのときにハンドファーストで振るイメージ、とのアドバイスを忠実に実行してきた佐藤だったが、17番のミスで、不安になっていた。
 やはり実際に、スイングを見てみないとわからないと判断した井上コーチは、翌早朝にコースへ駆けつけたのだった。

 練習場での、約1時間のスイングチェック(=写真上)で、井上さんは、佐藤に、プラスαのテーマを出した。
 「アドレス時から、ハンドファーストのイメージでいきましょう」
 インパクトのときだけでなく、スイング始動からその形を作っておけば、ギャップが少なく、より集中して振りやすくなる。
 また、パッティングに関してもひとつ、提案をした。
 もともと佐藤は、パットをアップライトに構えるタイプだが、そのためか、今週はやや、ボールがつかまりにくいという違和感を感じていた。
 そこで井上さんは、「ちょっとハンドダウンにしてみたら」とどうでしょうか」と話した。
 そうすれば、正しいライ角で構えられ、問題は解消するはず、と踏んだからだ。

 結果的にそれが、絶好調のパットを生むことになるのだが、「内心は、すごく怖かったんですよ」とあとで井上さんは、打ち明けた。
 何しろ相手は、優勝争いの真っ只中にいる選手なのだ。
 余計な情報が、かえって混乱させる場合がある。
 2つのアドバイスは、井上さんにとって、ちょっとした賭けだった。

 ヒーローインタビューで佐藤は、真っ先に井上の名前をあげて、礼を述べた。
 「今日勝てたのは、彼のおかげです」
 優勝カップを掲げての記念撮影で、一緒に収まった井上さんもまた、今回のウィナーだった。

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