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三井住友VISA太平洋マスターズ 2002

「I am TIGER!」

終始冷静に目の前の1打と対峙した中嶋常幸の12番パー4



今年6月の復活Vでは、2メートルのウィニングパットさえ、「果てしなく遠く感じ」、すっかり打ち終わるまで、迷い苦しみぬいた中嶋だった。
周囲のスコアの動きにもちくいち過剰反応し、「勝てる、いや、勝てない…」と最後まで、まるでシーソーゲームのように心の葛藤が続いたと、あとで打ち明けたものだ。

だが、この日の中嶋は、終始冷静に、目の前の1打に、没頭していた。

12番パー4。
第2打を、グリーン右手前のこぶの下に落とすピンチ。
2段グリーンの先にあるピンをまっすぐ狙おうとすると、かえって傾斜に流され、ボールは、カップから遠ざかっていく…。
(どう切り抜けるべきか…?)

前半の9番ホールあたりから、再び、風邪による背中の痛みがぶり返していた。
前の11番ホールで、痛み止めを服用していたが、
「このアプローチは“痛い”より“やばい”だよなあ…とか思って(笑)真剣に焦ったね」と中嶋。

「こんなときは、どんなパターンで切り抜ければいいか、イメージが湧くまで待つしかない…」

しばらくじっと状況をにらんでいた中嶋は、キャディの金本洋人さんに、「落しどころが、見えてきた」と言った。そして握らせたピッチングウェッジで、直接ピン方向を狙わず、グリーン右下の2つのマウンドを利用し、そこで3クッションさせてからグリーン上を転がし、ピン奥70センチに、ピタリ、とつけてみせたのだ。
同組の田中も、思わず唸ったスーパーアプローチ。

「自分でも、素晴らしかった。このときばかりは、I am TIGERって、つぶやいてたね(笑)。これだけ長くプロやっていると、他の選手よりも多彩さは、あるのかもね」(中嶋)。

パーで切り抜け、「このホールは、非常に大きかった」と振り返った。
勝利を手繰り寄せた、会心の1打だった。

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