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THE SINGHA CORPORATION THAILAND OPEN 2015

金庚泰 (キムキョンテ)が新婚初V!

ここタイで半世紀余の歴史がある格式高い表彰式で、日本語の優勝スピーチが聞けた。国王の写真が飾られた祭壇の前で、うやうやしく手を合わせて自ら賜杯を取ったのは、我らが庚泰 (キムキョンテ)。

今年最初のワンアジアと日本ツアーの共同主管の大会で、日本ツアー参戦8年目の貫禄勝ちだった。最終日は、2番で7メートルのイーグルで、単独首位に踊り出たのもつかの間、やはり韓国の若き後輩の王情訓(ワン・ジョンフン)との一騎打ち。この日はまた雷による約2時間の中断を挟むと、8番のバーディで並ばれた。9番でいよいよ、逆転を許した。

そこから2人で激しい競り合いも、常勝時代のアマチュア期に、母国で鬼と呼ばれた男の強さはだてじゃない。ジワジワと、19歳を追い詰めた。並んで迎えた17番で、5メートルのバーディチャンス。ねじ込んだ。ガッツポーズに力がこもった。その勢いで、王(ワン)の最後のあがきも封じた。

1打差で迎えた18番。王(ワン)はさらに内側につけて、プレッシャーをかけてきた。決められたらプレーオフもあるという場面。いよいよ鬼の本領発揮だ。
奥から急な下りの4メートルも、ど真ん中から沈めてみせれば若き後輩も、もはやお手上げ。目の前で、これまた派手にガッツポーズを見せつけられれば、萎縮して当然だった。あれだけ近かったワンのバーディチャンスも水の泡。しかも3パットの幕切れには目も当てられず、王(ワン)もただただ苦笑いで先輩の勝利をたたえるしかなかった。

3年ぶりの圧勝を、お祝いに駆けつけたのはその大半が、ともに日本で戦う選手たちだった。日本のツアーメンバーたちが一斉に放った水シャワーは、シンハウォーターの手荒い祝福。もはや、日本での転戦においてもなんの支障もない。流ちょうな日本語は、遠い異国の晴れ舞台でも役立った。
表彰式でも、優勝会見でもマイクを握り「日本語でやらせてください」と、迷わず切り出し主催者にも日本ツアーの代表として、心からの感謝を語った。

鬼の強さが影を潜めたこの3年。2010年に韓国選手として初の賞金王に輝いて、海外メジャーに挑戦する機会が増えて、無類の安定感を誇る選手が飛距離を求めて、罠にハマッた。
すっかりスイングの調子を崩して、これはダメだと後戻りしようにも、元の感覚はすっかり消えてしまった。あれだけ正確だったショットも一時は、目も当てられない乱れよう。勝てなくなった。
あれだけ冷静だった選手が、コースで感情をあらわにすることも増えて、「コースに行くのも嫌になったこともある」。
まるで出口が見えなかったこの3年間。懸命の修復作業の中で、今年は先輩プロで日本ツアーの参戦経験もあるJ・K・モーに指導を仰ぐことで、たちまち本来の強さがよみがえった。

そして、何より家族の存在だ。結婚したばかりの奥様チョン・ソンイさんとの間に、可愛い男の子が生まれたのは今年4月。思うように結果が出なくてカリカリする日も、2ヶ月になるチェハンくんのことを思えば、気持ちを切り替え明日に臨めた。
「この子のためにも、俺が頑張らなければと。そういう気持ちにさせられた」。
3年ぶりのツアー通算6勝目は、「家族の存在が、力になったのは間違いがありません」。
父親になった韓国の鬼は、父性に目覚めることで、さらに強くなってよみがえってきた。

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