Tournament article

東建ホームメイトカップ 2015

藤田寛之が目指すもの

午前中のハーフで、弟弟子の宮本勝昌と、上井邦裕との練習ラウンドを切り上げると、練習場へ。時折、激しく降る雨も、強風にもかまわず居座った。冷たいしずくが肩を濡らす。黙々と球を打ちながら時々、顔をしかめて背中をそらす。

「こんな天気だと、やっぱり固まってしまって・・・」。昨シーズンに痛めた肩が気にかかる。「もう痛み止めもいらなくなったし、マックスの力では打てるのですが」。練習はセーブせざるをえないとは言いながらも練習バンカーからパッティンググリーンに移動してからあとも、優に2時間半は超えているのだが。

「いやいやいや・・・。以前なら、バンカーだけで3時間はやってましたから」と、思わずこぼれた苦笑い。「前はこんなザワザワした気持ちのままで、練習を切り上げることなんかなかった」。ショットにしろ、パットにしろ、アプローチにしろ、「主に球の転がり方ですね。自分でこれ、と思うのが出なければ、絶対に練習場を離れなかったものだけど。今はやっぱり、体のことを考えると・・・」。

言葉の端に、ベテランならではの葛藤が透けて見えた。

もともと、大きなことを言う選手ではないが、近頃ではなおさら、2度目の賞金王はもちろん、以前なら喜々として語った海外メジャーへの強い思い入れも、ほとんど消えてしまった。
「そろそろ、そういうのはもう脱ぎ捨てないとと思うようになった」。
あれだけこだわっていた世界ランクも今は、もうチェックすることすらしなくなった。

今は自分の目標にがつがつするよりも、もっと大事なことがある。
「支えてくれる人のため、応援してくれる人のために、できる限り頑張らなきゃいけない」。
記録より、記憶。「たとえば、杉原さんみたいな・・・」。今は亡き杉原輝雄氏のように。結果うんぬんよりも、精一杯の真剣プレー。どこかに痛いところを抱えながらも、そんなそぶりはみじんも見せずに全力を尽くす姿勢。
「誰かの生きる力になるような・・・。プレーを見ているだけで、涙が出てしまうような。そういう選手を目指したい」。
ゴルフから授かったものを、ゴルフを通じて返していきたいと藤田は言う。昨年から地元でスタートさせたヤマハのジュニアスクールも、そんな気持ちの表れである。

昨年は、そのサマーキャンプに藤田も参加したが、翌日のプロとのラウンドが楽しみで、興奮して眠れない子。早朝3時に早々とゴルフウェアに着替えてスタッフの部屋のドアをたたいて、「寝れないから、今から練習していいですか?」。呆れるやら可愛いやら。
今年も、そんな“生徒”たちに、頑張る姿を見せられたらと思っている。
「出来るところまでやろうと思う。自分なりに、出来るところまで精一杯にやって、自分なりに結果が残せれば。そこに何かを感じてもらうことが出来ればそれが嬉しい」。
そんな思いを秘めて、今年も藤田が黙々と球を打つ。

関連記事