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中日クラウンズ 2013

松村道央が和合を初制覇【インタビュー動画】

54回目の和合を制したのは「松山」ならぬ「松村」だった。29歳が、21歳の2週連続優勝を阻止した。今年は特に、シビアな戦いに誰もがそろそろと手探りで進むようなV争いだった。ときどき誰かが長いバーディトライを沈めて、いっときワっと盛り上がるのだが、すぐにまた重たい空気が流れる。誰もが息を詰めるようにして、史上まれにみる大接戦は続いた。

「今日は本当につらかった」。
前半は、4つのバーディで一時は3打差をつけても心が安まるはずもない。比較的、チャンスホールが集まるアウトコースでは伸ばせても、今週は毎日だれかが後半に、その洗礼を受けてきた。

「勝負はここから」と、松村も手綱を締め直すなり、「頭が真っ白になった」。11番は、フェアウェイから何でもない2打目をバンカーに入れて、寄せきれずにダブルボギーを打った。

自ら死闘に踏み込んだ。
12番はすぐに2メートルのバーディで取り返しても、13番はバンカー目玉と、生きた心地もしなかった。15番では3メートルを決めたが、16番ではまたもやバンカーから寄せきれずに7メートルのパーパットが残った。

「この下りのフックを決めたのが大きかった」。
2打差のトップを死守した。しかし、劇的パーも決定打とはならなかった。1.5メートルを残した17番パー3。打つ前に、大歓声が聞こえてきた。ひとつ前の組で回る松山英樹が、18番でピンの奥から長いバーディを奪ったことを、知らせていた。

「やっぱり、松山が来たと思った」と、若きヒーローに影を踏まれていることを知りながら、1打差で迎えた18番で「もう一度、試練は来た」。セミラフから52度のウェッジで打った126ヤードの2打目は「和合では、絶対に奥にこぼさないように」とずっと肝に銘じていたのにここにきて、フライヤー気味になった1打は、奥のラフに転がり落ちた。

「最悪ボギーでも、松山とプレーオフ」。先輩の意地を見せたいと思った。「松山と勝負をしようと思った」。松山の、2週連続Vを阻止したいと思った。「今週は、他の誰もが思っていたこと」。楽に21歳には勝たせたくない。松村も例外なく、その一心で闘志を燃やした最終日だった。

師匠の後押しもあった。

2打差の2位で迎えた朝。メールが来た。律儀に「おはよう」と朝の挨拶のあとに、らしからぬ笑顔と太陽の可愛い絵文字に続いて「全英で待ってるぞ!」。
そういえば、今季初戦の「タイランドオープン」から始まっている全英オープンの日本予選。ランキングでは、上位2人に今年の出場権が与えられる。昨年の賞金ランキング2位で、すでに有資格の谷口徹からのゲキだった。
「気が引き締まった」。
2008年はデビュー年の翌年に、初舞台を踏んだメジャー戦。
「もう一度、あのころに戻って頑張ろうと、強い気持ちが芽生えてきた」。
また、初優勝から一気に年間2勝で、賞金ランクは自己最高の5位につけた2010年。1億円を稼いで初めて谷口を抜いた。
「谷口さんに勝てれば一流だと思っている。目標にさせてもらっている」と44歳に心酔している。しかし、その翌年から師匠との勝負にも絡めず、ぱたりと勝ち星にも恵まれずに最近は、その谷口にも「きつく言われていた」。昨年は11月の三井住友VISA太平洋マスターズで2位につけるまでは、シード権の確保すらもあぶなかった。ついにランキングも45位まで落ちて、「もう勝てないかもしれない」。そう思うと、つらかった。

復活を期して、このオフは「かなり自分を追い込んできた」という。2010年のトータルドライビングで1位。特にテイクバックに微調整を重ねて、飛んで曲がらない自慢のショットがよみがえってきた矢先にこの難コースでの復活Vだ。
「ずっと和合で勝ちたかったので。本当に嬉しい。この優勝は、これからの自信になります」。
まして、いまもっとも強い21歳をねじ伏せて、感無量だ。

結婚して1年半になる香織さんにも報いた。この日は大歓声の中にあっても、ひときわ大きな妻の声援にも押されて難攻不落の和合を制した。最後は、奥からのアプローチは「意外と、イメージが出せた」と怪物とのプレーオフに臨むまでもない。みごと、ピンそばのパーセーブで松山を振りちぎった。最後は、80センチほどのウィニングパットをきっちり沈めてツアー通算3勝目は嬉し恥ずかし、結婚後の初Vだ。

猛烈なアタックで射止めた7つも上の恋女房は、「今日も会場に来て下さっていますが」と、夫はなぜか妻に敬語で「今週も、ハラハラさせたと思う。しっかりしてくれないと、心臓が持たないと言われて頑張りました」。感動と安堵のあまりに泣き崩れた妻を、しっかりと抱きとめた。

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