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中日クラウンズ 2013

松村道央は妻に報いるツアー通算3勝目

優勝副賞のクラウン ハイブリッド アスリートG。「ゴールデンキーを持つ彼を見るのが夢だったんです!」(香織さん)
和合にひときわ響き渡る声援。「ナイスバーディ!」「ナイスパー!」。大観衆の中にあっても、かき消されることなく、むしろだんだん大きくなる。「どうも私は声が通るみたいで」と、照れた。「友達にも、よく言われるんです。テレビでも、あなたの声が聞こえていたよ、と」。

職業柄だ。妻の香織さんは、フリーのアナウンサー。松村が、ツアー初優勝から一気に2勝を挙げた2010年の祝勝会で、司会をつとめたのが最初の出会いだ。

ほっそり小顔の童顔で、しかもその美貌はアイドル並み。
松村の一目惚れで交際が始まったがしばらくして、驚かれた。

かつて師匠の谷口徹も、弟子をして言った。「あいつは俺より老け顔」。だからなおさら、「嫁が、僕より年上に見られたことは一度もない」と、松村は笑うが実は、香織さんは7つも上だった。

もちろん、それが分かっても愛が冷めるはずもない。むしろ、そんな可憐な風貌には似合わず、しっかり者であるところにますます惹かれた。
11年末に入籍。
出会ったころからマネージャー的な役割をかって出てくれたという香織さん。交際1年のスピード婚は、遠征中も交通や宿の手配はもちろん、洗濯や料理の腕前も抜群で、何をやらせても完璧という。
「すべてにおいて合格点だった」と大のろけで12年末には挙式もあげた。

「そのときから、覚悟はしていました」と、香織さんは言う。
「結婚して、旦那さまが悪くなったとか言われること」。
スポーツ選手なら、特に気になる嫁の評判。
「私は気にしないようにしていました」と香織さんは気丈に言うが、夫の成績は結婚を境に徐々に下がって昨年は、5月から8試合連続の予選落ちを喫したばかりか、終盤までシード権の確保を引っ張った。

結局、賞金ランクも45位に終われば本人たちは気にしなくとも、周囲が黙っていない。
余計なプレッシャーをかけまいと、あえてゴルフの話を避けてきた妻だったが、「もうちょっと、奥さんから言ったほうがいいんじゃない?」と、回りにけしかけられて、確かにと思ったりもした。

なんせ夫は家では時間があれば「ゲームばかりで」。プロゴルファーの間で流行りという「パスドラ」にハマる姿には、ゴルフに悩む素振りはみじんもなく、むしろお気楽そうにも見えたものだ。

白いご飯が好きで、愛妻料理にいくらでもおかわりをする。
近頃、太ってきたのが気になって、「おかずを増やしたんです。そしたらご飯の量が減るかも、と」。だが、むしろ余計にご飯がすすんで、香織さんを悩ませたことも。

だがそれも、いま思えばすべては妻に、落ち込んだ顔を見せないための夫の強がりだったと分かる。
結局、うまく励ましの言葉をかけられなくて悩む妻を、「大丈夫だから」と、逆に励ましてくれた夫。
「去年は特に、つらい思いをしたから今日は絶対に勝って欲しかった」と香織さんは言った。

だから、応援にも熱がこもった。「気持ちをもり立ててあげたかった」と、1万人を超える大ギャラリーの中でも人目もはばからずに声を張った。特に同じ最終組でまわる片山晋呉の応援団が凄かったから、せめてそれに対抗する気持ちもあったという。

最後の最後に松山英樹が、1打差まで迫ったと分かって香織さんにも、心臓が止まる思いがした。
それでも、史上まれにみる大混戦にも最後まで、夫はいつものポーカーフェイスを貫いた。
改めて、「本当に凄く強い人です」と、結婚後の初Vに惚れ直した。
夫婦で歓喜を分かち合うことが夢だった。
「こんなに感動出来るものだったなんて」。夫のウィニングパットを見届けるなり泣き崩れた。夢中で夫の名を呼び抱きついた。

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