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フジサンケイクラシック 2012

金庚泰(キムキョンテ)が1年ぶりのバースディV5

過去4勝でも、あんなガッツポーズは見たことがない。1年ぶりの優勝に、もの静かな男が感情をむき出した。今年40回の記念大会を迎えたフジサンケイクラシックは、雨中の大混戦を制した。

17番グリーンで聞こえた大歓声。「きっと勇太だ」。前の組の池田が劇的バーディで、金に並んだ。「勇太はチャンスに強い男」。その勝負強さはアマチュア時代から嫌というほど知っている。このままプレーオフにもつれこむと厄介なことになる。

最終18番。気合いが入った。右のバンカーに入れた第2打は、残り215ヤードで4番アイアンを握った。ピン奥4メートルにつけた。「フックに見えるけど、実はスライス」と、複雑なラインを読み切った。バーディを入れ返して、力いっぱいに握り拳を振り下ろした。

「カップに入る前からもうガッツポーズをしていた? そうでしたか・・・。結構凄かった? 僕は分かりません」と、本人はうそぶいたが思いが勝手にほとばしってしまうほどに、勝つことに飢えていた。

誤算は昨年12月。受験予定の米ツアーのQスクールを、直前で取りやめたのは周囲から、同週に行われる南アフリカのサンシャインツアーへの出場を勧められたから。
出場選手はわずか12人にして、賞金総額はなんと4億円。「これに出ないヤツはダメだとまで言われて」。内心は「本当にそうだろうか」と、いぶかりつつも、つい誘惑に負けたことを、今も後悔している。

それでも今季はひとまず推薦出場で出られる12試合を足がかりに、改めて米ツアーのシード入りを狙ったが、思うような結果が出ない。「今思えば技術というより心。プレッシャーがありました」。予選落ちが立て続くほどに「今のままでは通用しない」と、思い詰めた。安定感が何より武器の選手がパワーゴルフにまみれて、飛距離を求めた。「おかげで球は飛んだが、曲がりまくった」。持ち味もすっかり消えた。

4月にようやくシーズンが開けて日本に舞い戻ったとき、金の変化をいち早く指摘したのが専属キャディの児島航さん。「キョンテ、スイングが凄く早くなってる」。本人も自覚していただけに、すぐに軌道修正を試みたが一度崩したスイングを立て直すのは、容易ではなかった。「少し良くなってきた」と、1日は上位に顔を出しても4日も持たずに失速する。らしくないパターンが続いた。

2006年の日本アマ連覇。アマチュアながら、韓国ツアーで2勝を上げた。2007年のプロ転向は3年後に日本でも賞金王に輝いた。順風満帆にスター街道を歩んできた選手にとっては耐えられない屈辱。

以前、母親の曺福順(チョ・ポクスン)さんが言っていた。「この子は、小さい頃から本当におとなしい子で」。
しかし、軸足を世界に向ければ、良い子ばかりではいられない。米ツアーのシード獲りにも失敗して近頃は、感情をむき出すことが増えた。「ストレスがたまっていた」。今週も、2日目に上がってくるなり言った。表情こそいつもの笑みをたたえつつ、「いま僕はとても怒っていますので。気をつけてください」。アプローチの不振に、自分への怒りをひとしきり訴えた金は、その足で練習場に向かい、2時間も居座った。「今が一番大事なとき」。初めて味わうスランプに、ここが踏ん張りどころと腰を据えた。

それだけに、1年ぶりの勝利の味は格別だった。まして、この日最終日の9月2日は、26歳のバースデー。記念大会で、自身の記念日に劇的な“復活V”。「完璧ですね。今までで最高の誕生日になりました」。苦しんで、苦しみ抜いた末に、本来の強さを取り戻して「僕にとってこの優勝は意味がある。初優勝と同じくらいに嬉しいです」。

先週は、先輩の金亨成(キムヒョンソン)がツアー初V。「日本では初優勝でしたけど、彼は韓国では昔からとても有名な選手でしたので。これからもっと勝ちます」。また7月に、これまた初優勝を飾った弱冠20歳の李京勲(イキョンフン)も「あの人は飛ぶし、とても上手い」と、同じ韓国から次々と強豪が追いかけてくる。それと、なんといっても昨年のQスクールを勝ち上がり、米ツアーで奮闘中の裵相文(ベサンムン)。
同い年のライバルにも負けられない。
「今年は絶対に僕もQスクールに挑戦します。来年はアメリカで戦います」。
今度こそ絶対に、誰にも惑わされずに意志を貫く。

  • つらいときを支えてくれたキャディの児島さんと。
  • ますます上手になった日本語。マネージャーの伊井祥薫(いいしょうくん)さんがもしものときにと通訳として控えていたが・・・
  • 表彰式でもヒーローインタビューでも
  • 伊井さんの出番はほとんどなく、プレゼンターとして登場したキャスターの安藤優子さん(右)とも堂々と渡りあった

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