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ブリヂストンオープンゴルフトーナメント 2011

谷口徹は「勝利に飢えまくっている」

ホールアウト後は、グリーンサイドで行う予定だった報道陣の囲み取材も、「会見にしませんか」と、自ら椅子のある会見場に引っ張っていったのは「疲れがピークに達しているから。足に来て、体もスムーズに動かなくなっている」。
とにもかくにも座りたかった。それほどに満身創痍の43歳。8月の関西オープンからこれで10連戦目。こんなに続けて試合に出るのは、96年の5月から7月にかけて11連戦して以来だ。

近ごろは家を出るたびに家族に言われる。「なんで今年はそんなに試合に出るの?!」。確かに、今までは、シーズンは終盤を迎えるほどに、体調と相談しながら、うまく休養を挟んでやってきた。

「でもゴメン、いまは行かんとあかんねん」。後ろ髪引かれる思いで、自宅を出る。何かに追い立てられるように、いつになく試合に出続けているのは「勝利に飢えまくっているから」。

勝つことしか頭にない。「こんなに優勝したいと思ったのは10年ぶりくらい。ピークに来ている」。
火をつけたのは、目下賞金ランキングで1位を走る裵相文(ベサンムン)だ。

もともと、その能力は高く買っていたが、改めてその強さを見せつけられたのは10月初めのコカ・コーラ東海クラシックだ。予選は2日間の同組ラウンドに、過去2度の賞金王さえ圧倒された。
「ボールも飛ぶし、キレもある。アプローチも、パットもすべて上手い」。
中でも谷口の気を引くのはその安定感だ。
「悪いときでも、2位とか3位で上がってくる」。

毎週、ムラのないゴルフは昨年、韓国勢として初の賞金王に輝いた金庚泰(キムキョンテ)にも相通じるものがあって、裵(ベ)もまたさすが今季3勝を上げるだけのことはあると、認めずにはいられなかった。
そして同時に、「まだまだ、負けたくない」と勝負師の本能が、メラメラと燃え上がった。
「自分が相手になりたい。一緒に回って、やっつけたい」と、対抗心を隠そうともしない。

「久しぶりに、独身時代に戻った感じ」。
私生活が充実するほどに、遠ざかっていたこの感じ。2人の女児も授かって「モチベ−ションも落ちて、情熱が消えかけていた」。反省からこのオフは、今までになくラウンドをこなして、3度目の賞金王獲りに賭けていた。

その最初の関門が5月の日本プロ。連覇をかけた大一番で、大会3日目に8位タイでスタートしながら、激しい腰の痛みで無念の棄権。「ショックだった」。当初の予定は大幅に狂った。何週間もクラブすら握れない日々に、体力も試合感も目に見えて落ちた。

そのツケが、いま来ているのか。初日も後半の7番でトリプルボギーを打ったばかりかこの日も、後半は14番からの連続ボギーに「往年ならあんなミスはしない」。まして15番では、左に曲げたティショットが木に当たり、一度はセーフと告げられながら、やっぱりOBだったと打ちに戻る際の落胆といったらない。

「ガクっと来たけど、ヘコめない」。たまりにたまった疲れ倍増にも気力を振り絞った。残り140ヤードの4打目は、ウェッジで8メートルにつけて執念の“OBバーディ”を奪った。連続ボギーにとどめて、最後の2ホールで取り返した。通算6アンダーは、せっかく首位と2打差の3位タイにつけたのに、拍子抜けだ。

「裵相文(ベサンムン)がいない」。
先週は日本オープンのチャンピオンが、今週は通算2オーバーで辛くも予選通過に、「一緒に回ろうと、頑張ったのに。情けないヤツ」と、25歳の若きライバルをたきつけた。
「彼は勝った翌週が良くない。昔の俺のほうがまだマシかな」。これを聞いた裵(ベ)が発奮して、週末に盛り返してきたらしめたもの。
「強い選手と目の前で戦うのは楽しい。また勝つことで、嬉しさも倍増する」という谷口。勝利への飢餓感を埋めるのは、賞金ランク1位との直接対決しかありえない。

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