大混戦の最終日も目下、最強の男に最後は誰もが道を譲った。賞金ランク１位の前に、屈指の日本男児がバタバタと倒れた。２つ前の組で回る宮本は、17番まで８アンダーの大爆発。しかし、最終18番で第２打が池に沈んだ。

１つ前の石川もやはり18番。金とタイスコアで迎えながら、ティショットを右のラフに入れ、打ちあぐねているうちに、金が前の17番で14メートルもの長いバーディパットを決めていた。
「カップ４つ分くらい左に曲がる上りのスライスは、２パットで行くつもりだったが、ラインに乗って、自分でもびっくりした」と、金。
それだけに石川にとって、2.5メートルのバーディパットは最後のチャンスも、みすみす外した。

そして最終組は、同組の原口と矢野が、これまた第２打を揃って池に入れた。金がこの日、唯一パーオンを外したのはここ18番だけだった。しかしそれも、ほとんど無傷の手前カラーだ。あとはもう、これを２つでカップに沈めるだけで良かった。今年３度目のウィニングパットを丁寧にカップに流し込むと、相変わらず派手なアクションをするでもなく、チャンピオンはそっと静かに微笑んだ。

「みなさんが思うより、僕は短気な男ですよ」と、金は言う。この日も前半は１番のバーディのあとも、絶好調のアイアンショットで再三のチャンスにつけながら決められず、「焦ったり、怒りそうになったり、くじけそうになったり」。

そのたびに、自分に言いきかせた。
「大丈夫、大丈夫。我慢すればチャンスは必ず来る、と」。
それでも爆発しそうになったときは、エースキャディの児島航さんと他愛ない世間話でいつもの柔らかな笑顔を取り戻した。

「いつのころからか感情を表に出すほど、次のプレーに悪影響を及ぼすことに気がついて」。自制の心を厳しく自らに課すようになったと金は言う。憎たらしいほどのポーカーフェイスも、日頃の鍛錬のたまものだ。

賞金レースを争う石川は、「キョンテはグリーンに近づくほどに上手くなる」と言った。昨年、優勝争いをした丸山茂樹が、思わずこぼした。「キョンテはほんっとに上手い。それにしつこい」。
現在、10個ある部門別ランキングのうち、３つでランク１位。４つでトップ10というトータルバランスの良さが光る。

そして本人は、自分の強さについてこう語っている。「その週のコースコンディションと、自分のスイングの調子を出来るだけ早く把握して、それに見合ったマネジメントを組み立てるのが、僕は上手なのではないかと」。

そんな金にとって、今週のＡＢＣゴルフ倶楽部は「ガラスのよう」とも表される高速グリーンに、けっしてバーディ戦が期待出来るコースではなかった。それにも関わらず最終日は、周囲の激しい追い上げに、内心は動揺しながら、そして「最後は本当に力が抜けてしまうくらい苦しい１日だった」と吐き出しながらも、コースではそんな素振りはみじんも見せず、「今日は、安全に自分のプレーをしよう」という最初の決め事を頑固なまでに貫いた。

近ごろはそんなプレースタイルが、未来のプロを目指すジュニアたちのお手本になりつつあるという。しかし、「いやいや、僕は飛びませんし」と首を振り、むしろ19歳という若さで世間の期待を一心に集め、なおかつ期待以上の結果を出しながらも、いまなお謙虚さを失わない石川の生き様に尊敬のまなざしを向けながら「若い人たちは僕よりも、遼くんのようなプレーを目標にしたほうがいいと思います」と、圧倒的な強さを見せてなお、それを上回る謙虚さで金は言い張る。

今回はその石川を１打差で下し、優勝賞金は３０００万円を加えて石川に約３９００万円差をつけてさらに突き放したが、熱狂的なファンの心情を思いやるように、「今日は石川選手が惜しかったですけれどもまだ４試合が残っていますので」と、やんわりと金は言った。

確かに、韓国勢としても史上初の賞金王獲りへ「これで一歩近づきましたけれども」とあくまでも控えめに、本当の勝負はこれからであることを強調した。残り４戦も、高額賞金のトーナメントが続く。
「私も、石川選手もまだまだ気を抜かないで頑張りマシタ」。
一生懸命に考えて絞り出した日本語での優勝スピーチ。未来形で答えるべきところをつい過去形で言ってしまったのは、来日４年目のご愛敬だ。

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