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フォーティネット プレーヤーズ カップ 2025

勝てなかった10年。佐藤大平が、涙なしでは語れなかった初優勝の喜び

佐藤大平(さとう・たいへい)が、プロ11年目のツアー初優勝を達成した。
2差で逃げ切った18番で、待ち構える大勢のプロ仲間たちの姿を見つけてちんまりとグリーン脇で正座。

「ずっとこれを経験したいと思っていました。みんなにこうして祝ってもらえるのは本当に幸せ」。
心して水浴びした勝利の儀式に2人の愛娘たちが参加してくれたことも嬉しい。



「今回は勝つから見に来て」と珍しく強気に妻を誘って有言実行のツアー初V。

「本当に勝てるのか。こんなに長くかかるものなのか。勝つとどんな景色が見えるのか」。
待ち続けた瞬間は、選手会主催の新規大会で訪れた。
「絶対に泣く、と思っていた」。
でも、意外と泣けなかった。

「やっと勝てたことが本当に嬉しくて。そこに初代王者がついてきたので最高ですね」。
濡れた体も構わず、家族と笑顔で噛み締め合った。



3打のリードで迎えた最終日。
前夜は11時に就寝できても2時に目が覚め、朝まで寝られず。
「脳がなにかしら考えてしまって。緊張している」。

自覚はあっても体は動いた。


練習日から、仲盛キャディと確認しあったのは「勝ちたいな、でも、勝てるかも、でもなく“勝てる!”」。
最終日も自信は揺るがず、今季20ヤードも飛距離を伸ばしたショットも変わらず好調。
「楽に攻められる」と、スタートから連続バーディがきた。「リズムがつかめた」と、心の余裕もでき、3番の3パットボギーも4番で即バウンスバック。

3差を保って後半、12番で通算20アンダーに到達した。
14番では、ティショットが左の林の方に飛んだが冷静にパーで切り抜けられた。
池島の名物17番で、左カラーにかじりついた4メートルのバーディをパターで決めて再び3打差つけると「最後よほどわけわからんことが起きなければ勝てる」と、確信のガッツポーズが出た。



プロ転向の2015年から丸10年。


もっとも優勝に肉薄した中でも思い当たるのは、最終ホールの3パット・ボギーで星野と堀川のプレーオフに進めず3位に終わった2020年のフジサンケイクラシックだ。
逃したのは苦手にしていた下りのスライスライン。大学の1年先輩で、「なんでも相談する、お兄ちゃんのような存在」と慕う松山英樹から即、連絡が来た。
「あの3パットを思って練習するな」。

その言葉の真の意味が今ならわかる。

大学後輩で、22年賞金王の比嘉一貴(ひが・かずき)には負けるたびにダメ出しされた。
「保険をかけて逃げてちゃだめ。追いかける立場の選手がそれだと勝てない」。
尊敬する後輩の助言がいまストン、と胸に落ちるのは、攻めて逃げずに勝ててこそ。

プロ人生の原風景は、まだ日本ツアーの出場資格がなかった2017年。松山のエースキャディで大学同期の早藤さんに誘われて参加したチャイナツアーだ。

稼ぎ場を求めて集まった世界各国の選手たちの真剣みを目の当たりにして「自分は恵まれている。もっとがむしゃらにやらなければいけない。負けられない。あの経験がなければいま僕は、ここにいない」。
数々の紆余曲折を経て、見えた勝者の景色は格別だった。


初優勝が決まったすぐ瞬間は泣かなかったが、表彰式も済み、V会見も終わったあとのクラブハウスで佐藤は泣いた。

8歳の長男が、インフルエンザ脳症で生死をさまよったのは昨年末。「助かるのは半々」と、医師の宣告を受けたときには「僕も生きた心地がしなかった」という。

「この子のためにも今年はぜったいに勝ちたいと…」。
すっかり元気になって駆け付けてくれた息子の目の前で達成した11年目の初V。
その喜びは、涙なしでは語れなかった。



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