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コロナ禍でも続けるプロとキャディの二人三脚。武藤俊憲は「今が我慢のしどころ」

武藤が仲間の水シャワーを浴びる間も淡々と業務をこなして静かにクラブハウスに帰っていった小田さん。「主役は選手で、僕らは黒子です」。ザ・職人。
「パナソニックオープン」で勝つと何が嬉しいって、副賞としてパナソニック製品一式がいただけること。

とりわけ、家族の喜ぶ顔は格別だ。
昨年大会では二女のパパが、その特権を勝ち取りヒーローに。

武藤俊憲は、数ある賞品の中でも特に最新の大画面テレビの高性能を一例に、「本当に見やすくて、素晴らしいの一言。家族もとても喜んでくれましたし、主催者のみなさまには心から感謝しています」と、在宅のリビングでいま改めて1年前の余韻に浸る。

昨年は2位に今平、3位に石川。4位にはタイのジャズ・ジェーンワタナノンドと、日・亜ツアーの共同開催で、日・亜の若い賞金王も一網打尽に。
41歳にして、4年ぶりのツアー通算7勝目を飾った。

一番近くで支えてくれた小田亨キャディには、豪華V副賞の中から電子レンジとコードレスクリーナーを、おすそ分けした。

夫人の美奈さんも元プロキャディで、家族ぐるみの長い付き合い。
「こちらは小田さんにというよりは、奥様用に」と、それだけでも恐縮だったのに、さらに翌週の会場で武藤からポンっと、手渡された小箱の中身に、小田さんは心底、驚いたという。

パナソニック社製の電動シェーバーは、たまたま小田さんがV時直前に「そろそろ、新しいのが欲しいんですよ」と、話していたものだった。
「優勝してプレゼントします」と、快く請け合ってくれた武藤だったが、有言実行の表彰式で頂いた賞品目録の中には該当品がなかったのだ。

「かわりに嫁に何か他のものを譲ってやってください」と、自分の分は諦めていた小田さんだったから、武藤からのサプライズは本当に嬉しかったという。

「プロ自ら僕のために、わざわざ買い物に行ってくれたようです。しかも、律儀にきっちりパナソニックさん製品。僕はヒゲが濃いほうなので、4枚刃の極上の剃り心地は本当に重宝しています」と、武藤の心遣いに感激だった。

昨年の1勝で、さらに絆を深めて今年は2人で連覇を狙いに行くはずだった。
だが、新型コロナウィルスの影響で、本大会ばかりかほとんどの男子ツアーが中止や延期に追い込まれて次々と仕事を失い、小田さんも窮地に。

一般営業のコースで、キャディのアルバイトなど、臨時の働き口を懸命に探していたある日、武藤から電話が入った。
「小田さん、少しですけど振り込んでおきました」と、言われてこれまた仰天。

「武藤プロからの”持続化給付金”…。本当に、ありがたかったです」(小田さん)。

コンビを組んで12年目の今年はまさかのピンチも、試合ができない時間にこそ、ますます信頼関係を深めている2人。

小田さんは言う。
「確かに、今年は大変なことになりましたが、去年は武藤プロが優勝をしてくれましたので。このコロナ禍でも、その時の貯金に助けられましたがそれがなかったら、僕も家族ももっとひどいことになっていたかもしれません」。

そして、武藤は「いつもサポートしてくれる人に、恩返しをする番です。今はなかなか一緒に歩くこともできませんが、我慢のしどころ。また試合が始まったら小田さんとたくさん活躍できるように、その日を信じて終息の時を待ちたいと思います」。
ソーシャルディスタンスが、かえって2人の距離を縮めた。
互いに支え合い、助け合うプロとキャディの二人三脚は、試合ができない間も続いていた。

※今週の24日木曜日から京都府の城陽カントリー倶楽部で行われる予定だった日本とアジア共同の「パナソニックオープン」は、新型コロナウィルスの影響で、やむなく中止となりましたが、主管の日本ゴルフツアー機構とジャパンゴルフツアー選手会では、海外に居住する選手の入国制限緩和を求めて政府への働きかけや、手続きを継続し、一刻でも早い全シード選手が揃う形でのツアー開催の実現に、全力を注いでいます。

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