３年前に、日本にやって来たときから覚悟していた。外国から来た選手の活躍を、あまり歓迎しない人は、少なからずどこにでもいるということを。「僕の国でだって、そうですからね」。

だからこそ、12月のツアー最終戦では心底、驚いた。最終日は全員出席の閉会式も済み、めいめいクラブハウスに引き上げようとしていたときだった。

誰からともなく声が上がった。
「キョンテを胴上げだ！！」。
27人の屈強な男たちの腕で、あっという間に担がれた。
悲鳴を上げる間もなく、賞金王の体は軽々と宙を舞った。

最終戦までもつれこんだ賞金レースは、優勝するしかチャンスがないという条件を承知で、それでも「絶対に勝つ」と公言していた池田勇太が５位に終わり、２日目に61を出すなど猛チャージをしかけた石川遼も、初日の出遅れが響いて結局７位に終わった。

しかし、最終組からひとつ前の組で上がってきた金は、控えめに18番グリーンにのぼった。満員のスタンドに「賞金王おめでとう」の垂れ幕を見つけた。韓国人として、初の快挙を万感の拍手で迎えてくれた大観衆にも、いつもの静かな微笑みを浮かべ、ちょこんと手を上げてみせただけで、特別に感情を表に出すこともなかった。

「だって、僕はここでは“ガイジン”ですから。賞金王になったとはいっても、やっぱり遠慮がありましたから」と、金は言う。

それだけに、他の選手たちの祝福はことのほか心に染みた。そればかりか、選手たちはみな息子である自分よりも先に両親のもとに駆け寄って、「おめでとうございます」と言って次々と、祝福の声をかけてくれたのだ。
「こんなにもたくさんの方々に祝福してもらえるとは思っていなかったので…。本当に嬉しかったです」と、笑みがこぼれた。

思い返せばいつも、暖かく接してくれた仲間がいた。
「自分が韓国人ということを、ほとんど感じさせない環境でプレーをさせてもらえたから、この結果が得られたのだと思います」。

ゴルフだけでなく、懸命に語学を磨き、通訳を介さずに出来る限り日本語でコミュニケーションを取るなど、本人が重ねた努力の結果でもある。

９月のアジアパシフィック パナソニックオープンで自身初の賞金ランキングトップに躍り出たときに、両親に誓った賞金王の座。
自らに大きなプレッシャーを強いながら、それでも強い信念で、どんなピンチにも眉毛一つ動かさず、驚異の精神力と、抜きんでた安定力で勝ち取った頂点だ。

石川遼が羨望のまなざしを向ける。
「今年、何度かキョンテと優勝争いをさせてもらって思ったことは、とにかく、すべての分野で常に高いレベルを保っているということ。ほとんどドライバーは曲がりませんし、アイアンは、きれいにボールをコンタクト出来る。羨ましくて仕方ない」と、19歳は感嘆の声を上げる。

これもまた、シーズン途中に専属キャディの児島航さんに聞いた話だ。
「キョンテのドライバーは、そんなにいつも芯に当たっているわけじゃない。でも、いつも真っ直ぐに飛んで行く」。
「それだけインパクトでフェースがスクエアに保たれているということ。それこそキョンテの努力の証しだと思いました。キョンテに出来て、僕には出来ないことのひとつだ、と」（石川）。

今季日本ツアーは21試合に出場して予選落ちゼロ。優勝３回、トップ10入り12回。最低順位は33位。それ以外は、20位内を一度も外していない。

賞金王のほか、69.41をマークした平均ストローク賞や、88.69％のパーキープ率、パーオン率は72.43％を記録するなど、３部門でのランク１位が石川の言葉を物語っている。来年は、４月のマスターズに初挑戦する。「オーガスタは全ゴルファーの夢。今からきっちりトレーニングをして、夢の舞台で良い戦いが出来れば」。
韓国生まれの静かなキングが日本から、世界に羽ばたく。

※韓国勢として、初の賞金王に輝いた金には、12月６日（月）に都内のホテルオークラ東京で行われた「ジャパンゴルフツアー表彰式」で、社団法人日本ゴルフツアー機構より記念のトロフィと、東建コーポレーション株式会社より賞金100万円と、キヤノン株式会社　キヤノンマーケティングジャパン株式会社の坂田正弘・常務取締役より「デジタル一眼レフカメラ　ＥＯＳ60Ｄ」が贈られました。

また、平均ストローク賞として、同じく記念のトロフィと、VanaH株式会社の山本泰弘・取締役副社長より賞金100万円と、同社の「天然水素水VanaH」が贈られました。

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