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篠崎紀夫がプロ16年目の初優勝

プレーオフ5ホール目。
タイのチャワリット・プラポールが先にダブルボギーでホールアウト。篠崎は、カラーから7メートルのバーディパット。

初優勝はもう間違いない。緊張の糸は、すでに解けていた。ファーストパットは2メートルもショートした。
さらにパーパットも外して思わず深々と頭を下げた。
声にならない声で詫びた。「ほんとに最後の最後まで・・・」。

タップインのウィニングパットを決めて男泣き。そして詰めかけた大観衆に、改めて涙の謝罪。
「今日はこんなに長くかかってしまってほんとうにすみません。もっと早くケリをつけたかったんですけど、なんせこんな経験はじめてだったので・・・」。

無理もない。プロ16年目にして、シード権すらまだ。もちろん、優勝争いの経験もない。
だから首位と1打差の3位につけた前日3日目。
研修生時代からの付き合いで、ひとつ上の兄貴分に聞かずにはいられなかった。

「明日はスコアボードを見ながらプレーしたほうがいいですか?」。
「絶対に見るな」と、立山光広は言った。
「人のスコアも順位も関係ない。とにかくお前は、自分のゴルフだけをすればいい」。

途中、何度も欲求に負けそうになりながら、男の約束を貫いた。そして迎えた18番で、やっと安心してスコアボードを振り仰いだら、通算7アンダーは「いつのまにか首位に並んでた」。
ひとつ後ろの最終組の今野康晴が、17番でボギーを打って3人のプレーオフ。
そのとき思い出したのは、やっぱり立山のことだった。

昨年、仙台で行われた地区競技でも、最終日にプレーオフになった。
その1ホール目のティショットでスプーンを握る安全策をとって叱られた。
「お前はバカだ」と、立山は言った。
「あとは行くしかない状況で守ってどうする。どうせ負けるなら、悔いのない負け方をしろ」。

あの言葉がいま、まざまざと脳裏をよぎる。
「自分には一生ない」と、決め込んでいたツアー初優勝。
それを目前にして「これは、最初で最後のチャンスかもしれない」。
ならば、せめて悔いの残らぬゴルフがしたい。

「曲がってもいい。思い切りいこう」と心に決めた。
バンカーに林に深いラフ。
毎ホールでことごとくピンチを迎えても、やっぱり次のティショットで躊躇なくドライバーを振り抜いた。

2ホール目に今野が脱落し、プラポールとの一騎打ちは3ホール、4ホール・・・。
延々に続くかと思われた戦いにも満員のスタンドは、誰一人として席を立とうとはしなかった。
37歳の“無印男”の粘り腰。みなが固唾を呑んで見守った。

「イライラさせてしまったと思う」。
本人はしきりに詫びたが、かけられた声援は暖かさに満ちていた。
ANAオープンはアナウンサーの合図で、スタンディングオベーションで最終組を迎えるのがならわしだ。
しかし、いつしか誰の指図も受けない拍手と大歓声が、輪厚の森を覆い尽くした。

「篠崎、大丈夫だ落ち着いていけ!」。
「篠崎、絶対に勝ってくれ!」。
「篠崎、絶対に負けるんじゃない!」。

「きっと僕のことなんか、知らない方々ばかりだったと思うのに・・・」と、16年目のチャンピオンは涙声を張り上げた。
「今日はみなさんの声を力に変えて頑張ることができました。こんな無名の僕を最後まで応援してくださって、ほんとうにありがとうございます!!」。
16年分の涙を流した。

  • 表彰式のあとは前代未聞!! ボランティアのみなさんによる胴上げで宙を舞う。

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