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日本オープンゴルフ選手権競技 2014

池田勇太が79代目の日本一に【インタビュー動画】

自分ひとりだけのための優勝なら泣いたりなんかしなかった。自分ひとりで戦っていたのなら、こんなに辛抱することもなかった。「いつもの俺なら途中で帰ってるよ、こんなの」と冗談交じりに、タフな1日を振り返った。

ゴルファー日本一決定戦は、日本で最高峰とも言われるメジャータイトルだが「自分としては、あまりそういう意識もなく」。ツアー初優勝が2009年の日本プロ。「その価値もよく分からないまま最初に勢いでメジャーに勝っちゃったから、それが凄いことだともあまり気付かず」。
しかし、ある日無二の相棒が言ったのだ。あれは、最終日を単独首位で迎えながら4位タイに敗れた今年9月のフジサンケイクラシック。やけ酒を酌み交わしながら、専属キャディの福田央さんがぽつりと言った。「俺、日本オープンには勝ちたいな」。「・・・そういうもんなの?」。
誰もが焦がれるタイトルは、千葉学芸高3年の2003年と東北福祉大は4年の2007年大会で2度のローウェストアマを獲るなどアマ時代から馴染みの大会も、毎年厳しいセッティングに「俺の中ではフェアウェイ外してラフから出して、グリーン狙っても止まらないって、それじゃアマチュアのゴルフ。プロにとっては面白くない」と、そういう理由でつい最近までは、あまり眼中にはなかったのだが「付いてる選手に似て口は悪いが、実はあんまり物申さない。そんなヤツがね、急にそういうことを言うもんだから」。
池田がこの風貌だから、童顔の福田さんは余計に若く見えるが池田の10歳も年上でもう38歳。「俺もいつまでキャディが出来るか分からないし、俺のキャディ人生で勇太以上の選手にはもう会えないと思うし、勇太と日本オープンで勝つのが俺の夢」と、福田さんは言った。「そろそろ勝って」とデビュー当時から、コンビを組む相棒のそんな懇願に加えて「ここ1、2年は、この大会もプロの技量を試せるあるべき姿。心くすぐる。そんなセッティングにして頂いていると思うし、それで俺もやる気になった」と79回の今年、初めてこのタイトルを照準に据えた。

3日目に3打差の単独首位に立って、「この舞台では、追いかけるほうが楽」とは分かっていたし、「シンゴさんはもう2回も勝っていて、勝ち方も知っている。俺との3打差なんてどうなの、と思っているんだろう」と最終日は2人1組の最終組で回る敵の胸のうちを推し量るにつけても、厳しい1日になることは想像がついても「俺もそこには甘んじないでやろうと思った」とたとえ途中、片山との4打差もないものと思って耐えに耐えた。

3日目まではあれだけ決まったパットはこの日はほとんど役に立たずに、最終日に獲った2個のバーディも、11番はOKだし12番はチップイン。「今日はパットで獲ったバーディがひとつもない」と苦笑いで前半55番で、クラブを思い切り木にぶつけながら打った2打目や、6番では林から出すだけというピンチも「いつもならとっくに切れて、投げ出している」とじっと我慢が出来たのも、福田さんの言葉があったから。

最難関の14番でボギーを契機に本当の試練はここから。さらには16番でダブルボギーを打って、ついに片山が1打差と迫った。バンカーからの2打目は「ピンを狙おうと思っても、バックスイングが出来ない。しかも左足下がりであんなピンに寄るわけない」と、あえて右方向に打ち出した球は、しかしグリーンからこぼれて「最後のひと転がりで、コロンとラフに入って。あれは運がなかった。4では上がりたかったけど」。寄せきれずに、3メートルのボギーも逃して「5になってしまったけれど、1打リードしてるからまあいいや、と」。この日最大のピンチにも、「だからといって、次のホールでバーディを取りに行くとかはなくて、最後まで冷静に判断できたのが良かった」と、次も難関の17番ではティショットで3番のユーティリティを握り、2打目は「199ヤードから、あそこにつけられる選手はなかなかいないでしょう」と胸を張った会心のショット。「左からの風にぶつけて5番アイアンでカットさせれば左奥の“激ピン”にもオーバーはないと」。低く打ち出したボールはみごとピン右手前7メートルを捉えた。最後の18番も福田さんと堂々と、落ち着き払ってティーインググランドに立てた。永久シード選手を下して堂々と逃げ切った。

ウィニングボールをその手に託して「うちのキャディに“おめでとう”を言えたことが、本当に嬉しかった」と、優勝スピーチでふいに声を詰まらせ池田は泣いた。「メジャーに勝つということは、こういうことなんだと分かった」と、無二の相棒に捧げる何よりのツアー通算12勝目となったが実は福田さんと交わした男の約束は、これで終わりではない。
日本オープン制覇の夢を語ったあのとき、福田さんはこうも言った。「キャディとして“賞金王”を獲るのが夢」。今季2期目の会長職も「少しでもツアーの役に立つのなら」と周囲の猛反対も押し切って引き受けた池田だ。自分のことはさておき、それが他の大事な誰かのためになるのなら、どんな苦労もいとわないのが史上最年少の選手会長。
この優勝賞金4000万円で、賞金ランキングは4位に浮上。やにわに賞金レースに名乗りをあげれば、相棒のためにも絶好のチャンスを逃す手はない。次週はかねてより照準を合わせていたホスト試合のブリヂストンオープンと、再来週は連覇がかかったマイナビABCチャンピオンシップ。「これから3週は、俺の山場にしなくちゃいけない。このタイミングで勝てたから、今年はもう1、2試合は勝ちたい」。初の王座獲りを目指して福田さんと、いっそう足並み合わせて歩いていく。                                                                                                                                                                         



  • 「俺はなんともないけど、スピーチで言葉に詰まったのは福ちゃんに対する思いだけ。18番グリーンで福ちゃんにおめでとう、と言えたことが本当に嬉しかった」

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