Tournament article

関西オープンゴルフ選手権競技 2012

武藤俊憲が単独首位に

常々お世話になっている方々に、配っているオリジナルのボールペンに印字した言葉は「物言わぬ侍」。もの静かな所作で、淡々とキャリアを重ねていく様子を近しい人たちは、一時期そう呼んだものだが、しかし師匠の影響からか、最近の武藤は「物言う侍」になっていたかもしれない。

谷口徹は、思っていることをはっきりと口に出す。それは時に正直すぎるほどで、武藤ら弟子たちにも容赦なく、それが周囲のやる気を引き出したり、谷口の場合は長所に働く。
目標にしていることも、標的にしている選手のことも隠さずに言うやり方は、谷口に合っている。

そんなプロ根性に触れて武藤も近頃はよく、胸の内をはき出す傾向が強かったがここにきて「デビューした頃に、戻ろうと思います」。

思うところがあった。「今やるべき課題が見えたので。自分は課題が見つかったらそれしかやらなくなる人間なので。課題が見つかったのなら、公言したりせずにしばらく黙ってやろう、と」。

原点回帰はうっかりと、声も出せない過酷な状況を味わったから。2週前のWGC・ブリヂストン招待は「選手いじめのセッティング」。その中で要求されていることは、「いかにボールをコントロールするか。高さ、曲げ幅、スピン量。すべてをいっぺんに問うてくる」。
応えられなければ、容赦なく振り落とされる。
「“なんだこんなことも出来ないのか”と」。コースが選手をあざ笑う。「ものすごく細い綱渡りをさせられている気分」。耐えきれずに結局67位タイに終わって、「悔しかった」と唇を噛む。

「もっとショットの精度を上げていかなければ」。
帰国してすぐに、練習場に張り付いた。合わせてクラブセッティングも一新した。
そして何より「いかに、コースの要求どおりにプレー出来るか」。
帰ってから、そのことをより真剣に考えるようになった。

だからこの日の初日も、コースの声に耳を傾けながら回った。その中で奪った7バーディにも、武藤は満足出来ない。
火曜日に近畿地方を襲った豪雨で、ここ泉ヶ丘カントリークラブはせっかくの高速グリーンもソフトタッチになったと武藤も感じている。

主催の関西ゴルフ連盟も「優勝スコアは15アンダー前後」とハイスコアの戦いを想定しており、「このセッティングでは、しっかりスコアを出していかないと優勝は出来ない」。武藤にも、それが分かっていてみすみす逃した。
たとえば5番。
2メートルのチャンスも「フックラインか。でもまっすぐに打ちたい」。迷いながら打って、「結果を早く見たがって頭が上がってしまった。押し出した」。最後18番の5メートルも「入れとかなくちゃダメ」と、パーに終わってボギーなしの64でも喜べない。
ほぼピンチなしのゴルフも「こんなに良い条件で、いくつ取っても取りすぎるということはない」と貪欲だ。

先月は師匠に「もうちょっと勝てよ」と言われた。今週は、その谷口が不在の大会で、「今週はチャンス。今日のようなゴルフが出来れば“ちぎれる”と思う。でも、勝つといって勝てなかったらまたぼろくそに言われるのでね」。心に思うところは多いが今はただ、何も言わずに酷暑のコースを黙って歩く。

関連記事