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ブリヂストンオープンゴルフトーナメント 2011

谷口徹がツアー通算17勝目

憎らしいほどの強さが戻ってきた。首位タイで迎えた最終日は、「曲がる気がしない。ピンにしか行かない」。ティショットはことごとくフェアウェイをとらえ、アイアンは面白いようにピンを刺す。「ここまで完璧に打てたのは、なかなかない」と、自覚するにつけて「絶対に勝つ」。強い意志ももはや、揺らぐことはない。

片山が1打差に迫った。小田孔に並ばれた。しかしいずれも一瞬だった。激しいバーディ戦にも「後にホール数が残っている選手ほど有利」と余裕の構えは、さすが04年の歴代覇者も心得たものだった。

11、12番の連続バーディであっけなく敵を蹴散らすと、15番は「攻めて」端から3ヤードもない。狭いエリアにピタリと落とす。ピンそばのバーディで大混戦から一気に抜け出す。ボギーなしの65は最後も貫禄のバーディ締めに、トレードマークのガッツポーズも堂に入った。

久しぶりの表彰式では、指折り数えて苦笑い。「去年の日本プロから、1年半も勝ってない」。まさに勝利に飢えていた。「勝ちたい、でも勝てない」。若手と韓国勢の台頭に、歯がみする日々が続いた。今週は、実に15年ぶりの10連戦。43歳の今は、ことのほかつらかった。「休みたい。でも休んだら優勝出来ない」。妻の制止も振り切った。「勝つまでは、と意地で試合に出続けた。その甲斐がありました」。恋い焦がれ分だけ、喜びもひとしおだ。

今季の目標は、自身3度目の賞金王。オフはそのための準備も万端。この1年の計画もぬかりなく、迎えた今年。躓いたのは5月。ひとつ、最初の照準だった。連覇を狙った日本プロ。3日目を8位タイでスタートしながら、激しい腰の痛みに途中棄権。数週間を棒に振った。筋力は目に見えて衰えた。

試合感も鈍った。「張り合いを無くした」。20代、30代のころには「毎週、勝ちに来ている」と言ってはばからなかった。根っからの勝負師のやる気も失せ果てた。復帰しても「“参加賞”みたい。ただ出ているだけだった」。

昨秋には2人目の子を授かり、家庭にも恵まれ、最上階のペントハウスも購入した。高級外車も手に入れた。「買うもの買ったら満足感があった」。独身時代にはあった貪欲さも消え失せた。

そんな自分にふと気付いたときに、心に浮かんだのは被災地のことだった。震災の発生直後は、いちはやく義援金を送った男が改めて未曾有の災害を思うとき、奮い立ずにはいられなかった。
「俺は恵まれている。一生懸命にやらなければ」。
心を入れ替え、コースに立ち続けた。

大会が始まるまでは、満身創痍の10連戦も「まだまだ出ますよ。もう一回勝つまで出る」と、最後はすっかり元気一杯。1年半ぶりのツアー通算17勝目は、5打差の圧勝にも得意満面。「俺のほんとの怖さを見せてやった」と、憎まれ口も冴え渡る。お祝いに駆けつけた弟子たちにも開口一番。「お前らまだまだ練習足りない!」。

やっと悲願の今季初V。ベテランの次なる標的は、目下最強の25歳。現在、賞金ランク1位の裵相文 (ベサンムン)は、来季の米ツアー挑戦を目指している。「行く前に、絶対に一緒に回って倒すから」。これからも、まだまだ若手の壁になる。

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