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ダイヤモンドカップゴルフ 2011

藤田寛之が「彼は大穴」

16番パー3は、24度のユーティリティで1メートルのバーディチャンスにピタリと止めても、この人に笑顔はなかった。「あれも、ダフリ気味で。上面に当たったようなショットで」。結果的にバーディ、なんて内容ではこの男には到底満足出来ない。
結果的に単独3位も、許されない。
「今日はフェアウェイにもほとんど行っていない」。得意の小技で「なんとかつないだ」。この日の3アンダーも「真逆の3オーバーと、隣り合わせで。納得いかないラウンドでした」と、不服そうに「ショットがほとんど赤点ですね」と、吐き出した。

ただでさえ、心乱れて上がってきたのに1打差4位に弟子の名前が。
「いや、弟子と認めたことはないですけれど」と、いつも温厚な選手が珍しく辛辣だ。

河瀬賢史(かわせまさふみ)は2年前から自分を慕い、ともに行動するようになった。10歳下の後輩のやることは、言われなくても読めている。
この日は4位タイに浮上した記者会見。「やたら俺の名前を言ったでしょう?」と、それすらもすでにお見通し。

先週、首位につけた初日にもインタビューを受けた際に、芹澤信雄の名前は出しても、藤田のことは一言もなかった河瀬。
「説教してやったんです」。
河瀬がその穴埋めに、この日の会見でその挽回に躍起になったことは、藤田にも想像に難くない。

先週も、この日の河瀬の66にも、「マーカーさんが、間違えたんだろうな」と、弟子の2週連続の活躍もにわかには信じがたい。
最近、河瀬が自分に似てきたと言われていることも、認めたくない。
「あまり一緒にいると、思われるのもイヤなんですけど」と露骨に「あいつの服は、僕のお古。最新版じゃない。アウトレットモデルですから」。だから最終日も、ウェアがかぶることはないと断言した。
「ウェアあるけど、と連絡したら“行きます、すぐ行きます”とアイツ飛んで来る。ハイエナみたい」とひとしきり笑わせて、ふと振り返る。

「あいつは、10年前の自分です」。
芹澤信雄を慕い、ゴルフスタイルからその生き様まで心酔した。「芹澤さんがウェアをくれると言ったらもう、本当に嬉しくて」。自分だって、喜び勇んで駆けつけた。

スイングであおる河瀬のクセを、徹底して指摘し、改善させたのは今月初め。
「自分が芹澤さんに教わったことを、そのまま教えているだけなんです」。今は自分が、芹澤の立場になっている。「それで結果が出てきている。時代は繰り返すんですねえ」とそれもまた感慨深い。

最終日は、河瀬が藤田の最終組のひとつ前になった。「自分と同じで、もともとショートゲームは上手い。それにいまどき珍しくハングリー」。
自分は、芹澤に追いつこうなどと、大それたことは思ったこともなかった。しかし河瀬は平気で「藤田さんに追いつこうと思ってやりました」などと、言ってくる。
「僕のオーラがなさ過ぎですね」とその点では悔しいが、「彼は大物なんです」と、認める部分も大いにある。
「今週はチャンスでしょう」と、河瀬の活躍を予言した。
「いま勝てないと、もう勝てないでしょう」と時折混ぜる毒舌も愛情と激励の裏返し。「調子もいいし、今週は彼が大穴かもしれません」。
最後はきちんと弟子を持ち上げてから、「それに負けているんじゃダメですね」と、師匠も自らにムチ打った。

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