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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2010

藤田寛之が3打差の単独首位に

競技を終えるなり、その足で練習場に直行する習慣は、この日も相変わらずだった。一番端っこに席を陣取り、この日も誰よりも遅くまで居残って、球を打った。

それでもなおこの人が、満足する瞬間は今年は結局、最後までなさそうだ。
「残念ながら、明日も不安を抱えたままのラウンドになりそうです」。

3日目の64は、課題のショットが「昨日のゴルフと予想に反してよかったので」。チャンスを作り、得意のパットを生かしてバーディを量産出来たというが、それでもなお「とても勝負出来るようなスイングはしていない」と、藤田は言う。
あいかわらず理想には到達出来ないまま、いよいよ最終日を迎えるが、しかしその表情は、いつになく穏やかだった。

もともと温厚な性格は、ギャラリーへの思いやりにも満ちていた。この日は石川遼との同組に、石川がプレーを終えると一目散に次のホールへと走り出す大ギャラリー。
「気にならない・・・と言ったらうそですけれど。みなさんもその楽しみがあって来られているわけですし、遼くんを見に来ている、というのもあるでしょう。その中で運営の方も、止めようと一生懸命やってくれてる。僕一人の“コンサート”じゃないし、そういうこともクリアにしていくのがプロフェッショナルだと自分なんかは思うので」。

百戦錬磨のベテランはどんな状況にも最後まで、集中力を切らすことなく難しい最後の18番も、バンカーから完璧に寄せて、パーを拾った。
3打差の単独首位を守り抜いた。

呪縛からようやく逃れたのは先週。
カシオワールドオープンで、13位タイに終わっていよいよ賞金王の可能性は完全に消えた。

もともと、本人にはそれに対する欲は薄かった。むしろ、「思い通りのスイング、プレーをすること」に重きを置くタイプで、名誉欲はほとんどない。
しかし、周囲の期待は本人が思っていた以上で、41歳の賞金王誕生を待ちのぞむ声に応えたいと、その一心で走り続けてきた1年だった。

序盤こそ賞金レースを引っ張ったが、夏場に師匠の芹澤信雄も認めた極度のスランプに陥り、思うように応えられないジレンマ。「賞金王を争う選手がこんなゴルフでいいのか」と、自問自答が続いた。
そんな日々と、ようやく決別した今は、ひとまず自分の目標だけに純粋に向かっていける。

毎年、このツアー最終戦は「1年間頑張って、ここに来れたということが嬉しいし、4日間プレー出来ることが喜びだった」。多少のお祭り気分があったが「今年は少し雰囲気が違う」。
賞金王は消えても取り残したもの、取りに行くべきものが、まだあるという思いだ。

そのひとつが、現在58位につける、世界ランキングだ。年末に50位内に食い込めば、来年4月のマスターズの出場権が手に入る。

また、現在4位の賞金ランキングはひとつでも順位を上げれば、マスターズ以外のメジャー出場のチャンスも広がる。
「僕は、人と少し感覚がずれているのかもしれないですが、そういうことに、喜びを見いだすタイプで。それが実現出来れば、理想の形になって、達成感が手に入るのかな、と思う。そのためにも3打は大きなリード。いまのツアーはレベルが高くて昨日の遼くんのように、8アンダーを出す選手がごろごろいるのはわかっているけれど、明日は自分が伸ばして追いつかれないようにするしかない。最後は若い選手にも、負けないようにしたい」。

勝てばこの頂上決戦で、昨年の丸山茂樹に引き続き40代の最強選手となる。自身との格闘に苦しみ抜いた昭和の戦士も、最終戦での今季2勝目で、やっと満たされる。

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