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レジェンドの特別講義! 合宿最終回は“ハットマン”(2月16日)

講義当日もトレードマークで現れた新井(中央、左は廣戸氏、右が鈴木)
2013年からスタートしたJGTO主催の“宮崎合宿”に登場したレジェンドは、これで通算5人目。通称“ハットマン”、または“タフマン”。「私は“鉄人”と、呼ばせてもらっていたけど」とは、合宿の総責任者でJGTO理事の鈴木規夫だ。

もう40数年前になる。「僕もツアーに出るようになったときに、青木さん(功)と、金井(清一)さんと鷹巣(南雄)さん、そしてこの新井さんと誰より親しくさせていただくようになって。幼い僕には、大学を出て、プロを始められたという新井さんがとにかくカッコ良く見えて。淡々としたプレースタイルも、僕は好きだった」と、懐かしそうに振り返る鈴木に、よせやいとでも言いたげに「・・・帰るよ!」と、照れた素振りも当時のまま。

合宿の参加者の前で、相変わらず器用にクラブを操る新井規矩雄(あらいきくお)。デモショットもあのときと、なんら遜色もなく鈴木がここでもすっとんきょうな声を上げる。
「72歳で、こんなにも身体が動くんですね!!」。

全盛期には、国内外合わせて年に50試合余をこなして疲れ知らず。「ただ毎週、毎日ご飯を食べるように、僕はゴルフがやりたかっただけ」と平然と、当時"タフマン”の異名を取ったゆえんである。「・・・ヤクルトじゃないよ!」と軽妙に突っ込むダジャレ好きもあの頃のまま。この日も颯爽と被って現れた。トレードマークの洒脱な中折れ帽でひょうひょうと、息詰まるV争いもいつもどこ吹く風だった。目の前の1打に、ひたすら徹するプレースタイル。鈴木の述懐は、続く。「新井さんは、本当に紳士でしたね」。一方でアデランスのCMに堂々出演して“お茶の間”をあっと言わせるなど、コース内外で一世を風靡した。

通算18勝は、米ツアー参戦の先駆者的存在でもある。1985年には、米「ビング・クロスビー・ナショナルプロアマ」で2位に。1973年の日本オープンと、1988年には三菱ギャランとNST新潟オープンと、通算3度のアルバトロスの達成も、ツアーで唯一同一年に2度の快挙というオマケつきだ。

この宮崎合宿のメイン講師でもある廣戸聡一先生によれば、新井氏の身体の動かし方は青木功や、野球界では長嶋茂雄氏と同じタイプだそうで、鈴木には思い当たるフシがある。昨年、一昨年とこの合宿で、“教鞭”をとった青木。フェードボールの極意を聞かれて平然と答えた。「簡単だ。自分はフェードを打つんだと思うこと」。
まさか、そんな世界のアオキと身体の動かし方が同じだからといって、新井氏も同じ考えとは限らない。そう鈴木は思いたかった。
思いたかったが案の定・・・。
「こだわり? 僕にそんなもんないよ。決め球? そんなのもない。構えて、ただ思い切って打っちゃう。曲がったら嫌だと思うから曲がるんだ。良い球を打とうとするから、悩むんだ。僕は素振りもあんまりしないよ。やり過ぎるとかえってリズムが狂うからね」。
言葉の使い方は、確かにあのミスターをも彷彿とさせる。「僕は感覚でね、パパパッと打っちゃう。それのほうが、リズムが出来ていいんだよ」。

73年のシード制施行からシニア入り目前までに最も不振といわれるシーズンでも、75年の賞金ランクは21位。無類の安定感も、49年という長いプロ人生では、それなりにスランプも経験してきたはずだが「確かにね、初戦から5試合連続予選落ちっていう年もあって、周りをやきもきさせたけど、僕自身はつらくなんかなかった。大好きなゴルフをして食べて、寝て、起きたら自然と治ってた」。

「・・・確かに食ったね〜、新井さんは」と、鈴木もその健啖ぶりを思い返して苦笑い。合宿の責任者としては、なんとかこの講義の中に、若い参加者も納得出来るような分かりやすい落としどころをとは思うのだが、自由奔放な“ハットマン”は“元祖・九州の若鷹”にも操縦不能だ。

鈴木は再確認した。新井氏も、その根幹は青木と同じ。そんな確信を本人に伝えると、「僕も青木さんが好きだよ」と、なんとも無邪気な返事が返ってきた。新井氏の講義もまた理屈は一切抜きで、むしろ単純明快。しかしだからこそ若い選手たちには難解で、もっとも困難な域だからこそ伝説と呼ばれる。理解できてもできなくても、そんな生の声を聞くことに意味がある!!
「要するに、僕はノー感じなんだな」とのほほんと、今回のレジェンドも参加者の前でお茶を濁して取り繕うようなことはしなかった。
「優勝争いの心構えといったってさあ、状況によって違うわけだし。練習場でいくら良い球打ったって、コース行ったらその通りに打てるわけじゃなし。僕はただ、ゴルフが好きで、勝負することが大好きで、先輩にも後輩にも負けたくないっていう思い。自分は自分のことをする。それだけ」とあっけらかんと、「あえて皆さんに言いたいのは、自分にもっと素直に、もっとゴルフを楽しんでくださいってことですね」。
と、ここまで聞けば、さすがの鈴木もこの日はこう締めるので、精一杯。
「・・・今日の講義は、感覚派の新井規矩雄さんでしたっ!!」。

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