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ABC チャンピオンシップゴルフトーナメント 2004

井上信 デビュー7年目の初優勝「下から上りつめて勝った僕の例が、他の選手のやる気になればいい」

1打差の接戦にも、「耐えていれば、必ず僕にもチャンスがある」と思って歯を食いしばったが、もちろん、ここで井上がいう「チャンス」とは、「優勝の」ではない。
あくまでも、「初シード入り」のそれだった。

98年のデビューから、賞金ランクの最高順位は昨年の118位。ファイナルクォリファイングトーナメントから挑戦した今シーズンも、先週までの同ランクはボーダーラインにもほど遠い、81位だった。

12月7日の30歳の誕生日を迎える前に、「なんとか、初シード入りを。今年逃すと、当分、無理かもしれないから」。
切羽詰まった気持ちから、今大会の本戦切符をかけたマンデートーナメントに挑戦。トップ通過を果たして出場権をもぎとった。
「これが、シード入りのラストチャンス」と、言いきかせて本戦にのぞんだ。

2打差の単独首位で迎えた最終日の朝、新聞の紙面に踊る文字を見ても「まさか、自分がそんなこと」と、思ったくらいだった。
『井上信、史上19年ぶり3人目の快挙へ』
マンデートーナメントから優勝した例は、79年フジサンケイクラシックの佐藤昌一と、85年三菱ギャランのブライアン・ジョーンズしかいない、と書いてあった。
もし勝てば、新たな歴史に自分の名前が刻まれる。が、「そんなの、自分には縁のない話」と、思いこんでいた。繰り返して言うが、今回の目標は、あくまでも「初シード入り」だったからだ。

それなのにいま、息詰まる激戦を制してこうして頂点に立っていることが、われながら不思議で仕方ない。
「信じられなくて…」呆然と、繰り返した。

これからシーズン終盤、フル参戦できる。
タイガー・ウッズの来日に沸くダンロップフェニックス。「テレビで見るもの」と、思いこんでいた世界ランカーと、同じ舞台で戦える。
その年のチャンピオンと、賞金ランク25位内の者にしか権利がない最終戦のゴルフ日本シリーズJTカップにも出場できる。
「ええっ本当に?! 僕なんかが、出てもいいんでしょうか…。恥をかいてしまうかもしれない。やばい、まずい、どうしよう…」。思いがけない初優勝に、戸惑いを隠せない。

そんな井上の初々しい反応を見ながら、昨年、苦労の末に初優勝をもぎとった平塚哲二が、しみじみと言ったのが印象的だった。

「…それこそ、みんなが通ってきた道」。

日を追うごとに井上も、チャンピオンとしての自覚と風格が生まれ、いやおうなしにそれに見合った活躍を期待されるようになるのだろう。そうやって、プロとしての成長をとげていく。

井上が、新しい道を拓いた。
まさに「下から上りつめた」(井上)今回の優勝が、今後、まだ出場権を持たない選手たちの、希望の星になることは間違いない。

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