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武藤俊憲のあるオフの1日

ニュージーランドと日本の時差は4時間ある。帰国当時は早々に眠くなり、早々に目が覚める症状も、やっと薄らいで来た頃に、武藤が向かった先は大阪市内の自宅から、車で30分ほどのトレーニングジム「HANA GOLF ACADEMY(ハナゴルフアカデミー)」。

ここに通いはじめて丸1年。ジム主宰の花ヶ崎光広さんが、兵庫県小野市のローズウッドGC内のジムに続く2号店を、ここ同・尼崎市にオープンさせたのが昨春。以来、“ホームジム”としてオンオフ問わず、時間さえあれば通い詰めるようになって半年も経たない頃、弟弟子の松村道央に「武藤さん・・・始めましたね?」と、感づかれた。

「自分でも、明らかに体が変わったという実感がある」と、今や全幅の信頼をおく山田太平トレーナーと、マンツーマンで汗を流すオフの1日。

豪州とアジア共催の「ISPS HANDA ニュージーランドオープン」で、元プロ野球の桑田真澄さんと組んで24位Tの結果を残した武藤はひとつ、懸念を持ち帰っていた。
「変な当たりは4日間でたった2回くらい。ショットは凄く良い。でもパットがどうしても左、左に出て・・・」。
ジムに着いて、マットに横たわるなりさっそく山田トレーナーに訴えた武藤。その体を触りながら、症状や現地の様子を聞いたり、診断を始めた山田トレーナーは、武藤のこの言葉に注目した。
「ニュージーランドはイギリスみたい。けっこう下が固かった」。
朝晩の冷え込みがきつく、使用された2会場のミルブルックもザ・ヒルズも共に風が強く、まるでリンクスのようにかちんこちんの地面は、思いのほかキツかったという。

なにげない会話に見えて、これもトレーニングの一環だった。いつも、こんなやりとりから始めるのが2人のスタイル。
パットの不振と、地面が固いの。一見、無関係にも思える現象にも実は因果関係があった。固い地面を歩き続けたことで足首回りに負荷がかかり、それが股関節にまで影響を及ぼしそのために、パットのアドレス時のバランスを崩していたのではないか。そう診断した山田さんがさっそく施術を加えると、あっという間にそれまでの違和感は消えた。鏡の前で、パットのスタンスを取ってみると、うそのように自然な構えが出来るようになった。

こんなふうにして、実践やオフのラウンド合宿で感じたことを、武藤がせっせとジムに持ち帰り、それを山田さんが1個1個丁寧にひもといていく。オフは異変に気づいたらすぐに、シーズン中なら毎月曜毎に、ジムでこうして軌道修正していくのが2人の習慣。体の動きの悪い癖を徹底して排除して、シーズンを通して疲れにくい体を作っていこうとする2人の共同作業である。

この日のトレーニングで挑戦した負荷は最大で50キロ。バーを引き上げてから、胸の前でパッと持ち替えるという高難度のメニューは、何回指導を受けても成功させる人はまれだそうだが、武藤は一度の説明だけで、すぐに器用にやりこなしてみせた。山田さんは「武藤プロの飛ばしの秘訣もここにある」と改めて感心しきりで「今年は武藤プロのスポンサーでもある5月のミズノの試合と、特に秋のフルシーズンをピークに、仕上げていきましょう」と、改めて今後のメニューを確認しあった。

このあと3月の4週目にはまた、谷口徹の宮崎合宿にも合流する。この数週間で、師匠への土産話もたくさん出来た。

プロ野球の春期キャンプを視察に来ていた桑田さんと偶然、会ったのは前回2月の宮崎合宿の時。「谷口さんと桑田さんが“久しぶりだね〜”なんて話しているのを“ああ、この2人は本当に同級生だったんだな”なんて。不思議な気持ちで見ていた。その直後にまさか、ニュージーランドで桑田さんと僕とで回ることになるとは思わず」。
プロアマ形式の大会で、桑田さんと濃密な1週間で得たたくさんの収穫を手に、いざ帰国の日は飛行機が半日以上も遅れて空港で、夜を明かす羽目になったこと。

夜食を調達に行った若い堀川未来夢(ほりかわみくむ)が「暇つぶしにトランプも買ってきました」と、そこからプロゴルファーによる大ババ抜き大会が始まったこと。
海外遠征ならではの数々のハプニングも「これこそ醍醐味。楽しかった」と今年もオフを満喫しきって、シーズンインを待つ。

ニュージーランドでは39歳の誕生日も迎えた。自身も不惑を前に、改めて思うのは師匠の凄さだ。
「谷口さんは、今年もう49歳だけど、気持ちも体も信じられないくらい若くて元気そのもの。僕も出来る限り吸収して頑張りたいと思います!」。
ベテランも、中堅も若手も爪を研ぎながら、ジャパンゴルフツアーの開幕を、首を長くして待っている。

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