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谷口徹が地元・奈良県の児童養護施設を訪問

「それに相手は子供でしょう? 負けませんよ」と、豪語したからには負けられない。中島道治・院長も含めて一人、二人と次々と挑戦者をなぎ倒して、いよいよ真打ち登場に、本気になった。
最強の“敵”は、卓球部のキャプテンをつとめるという中学生。ゴルフのスイングもそうだが、「スポーツは腰が基本」と、ぐっと体勢を低くして「さあ、こい」と勇ましく待ち構えたが、スピンの効いたサーブを受け損ねてさすがの44歳も相手の思うツボ。
「・・・さすがだな!」と、口では感心しながらも5対3に破れて悔しがる様子はついさっき、子供たちと興じたスナッグゴルフ大会で、2打差で負けたとき以上であった。
種目こそ違えど、過去2度の賞金王による屈辱の敗退も、子供たちの柔らかな手が慰めてくれた。「抱っこちて〜」と、腰にまとわりつく子。近ごろ、本人もちょっぴり気になるお腹回りを可愛らしい指でつんつん、と突っつく子。次々にさしのべられる手をひとつひとつ握り返して、にっこり微笑む。こんなとき、この人はいつも優しい父親の顔になる。
6歳になる菜々子ちゃんと、1歳の桃子ちゃん。2人の可愛い娘の父も「男の子の扱いだけは、どうも分からない」と苦笑しつつも、あっという間にその輪の中に溶け込んでいく。
卓球大会の直前のスナッグゴルフ大会で、ちょっとした事件が起きた。他の児童が打ったアプローチが小さい女の子の頬に当たった。ちょっぴり痛かったのと、びっくりしたのと。両方とで泣き出した子。その子の顔をしっかりと覚えていて、あとからなんとも優しい笑顔で「大丈夫だった?」と抱きあげて、ほっぺたをさすってやることも忘れなかった。
毎年、賞金の一部を、出身の奈良県にある9つの児童養護施設と母子生活支援施設に寄付して、オフには必ずそのうちの一施設を訪問して歩く活動は、もはや谷口のライフワークのひとつとなった。
先の“熱戦”の舞台となった卓球台も、校庭の真新しいバスケットゴールも、谷口が贈ったお金で施設が購入されたものだ。
そのほか、多目的ホールに新たに設置された液晶テレビも、さっき子供たちに見せた、昨季17勝目のブリヂストンオープンでの雄姿を映した映写機もそう。「あと、ヤマハのエレクトーンは3台。これは特に、保育士を目指す子供たちが非常に喜んでいます。必須のピアノの勉強をさせてもらえる、と」。そういって、エビス顔の中島院長の感謝の言葉に、谷口も嬉しくなる。
今年は、いつも寄付金の窓口をお願いしている「社会福祉法人 奈良県共同募金会」の高木三起子・常務理事も、わざわざ感謝状を携えて来院してくださった。
昨年の大震災では被災地に多くの義援金が集まったがその分、歳末助け合いなどへの募金が大幅に減ってしまったことは否めない。
それだけに、「谷口さんのように、子供たちのためにと、毎年欠かさず寄付してくださるのは、本当にありがたいことです」と、高木氏にも深々と頭を下げられれば、ますます捨てておけない気持ちになる。
ジャパンゴルフツアーも開幕を目前に控えて、「今年もまた、出来るだけたくさん稼いで子供たちにプレゼントがしたい」との思いも高まる。
こうして施設を訪問する中で、谷口がいつも安堵するのは「こちらが思っている以上に子供たちが明るくて元気なこと」。それでも春休みの真っ只中のいまの時期なら、家族との楽しい思い出が、たくさん作れるはずなのだ。
それさえも許されず、週のほとんどを施設内で過ごす子供たちにもせめて、少しでも楽しい思い出を。44歳が、今年も若手とのオフ合宿でヘトヘトになった身体にムチ打つ何よりの理由がそこにある。
さまざまな事情を背負い、施設にやってくる子供たちが毎年、あとを断たない。その一人一人と1日24時間みっちりと向き合いながら、よりよい人格形成を目指して尽力される中島院長らの姿と自らを重ねて、「子育てって本当に難しいですねえ」と、嘆息する表情もまた、二児の父親のそれだった。
今回、谷口が施設を訪れた3月29日の、まさにこの日にも3人の子供たちが、ここ「天理養徳院」を巣立っていくことになっていると聞いた。ようやく、家族団らんで過ごせる時を迎える。「お別れするのは職員たちには非常に寂しいですが、子供たちにとっては非常におめでたいこと。どうかもう二度と、ここに戻ってくるようなことがありませんように・・・」。祈るように言った中島院長の言葉が、谷口の心の声と重なった。
楽しいひとときを過ごして去る谷口の愛車のあとを全速力で追いかけて、施設の急な坂の下まで見送ってくれた子供たち。「元気でね、またどこかで会おう」と、精一杯の思いをこめて手を振った。

中島院長(右端・・・小さくてスミマセン!)との対戦以上に熱が入ったのが、現役の卓球部キャプテンの子との対戦だったが・・・!! 
抱っこちて〜!!と駆け寄ってくる子供たちを見る目はことのほか優しい。こんな笑顔、ツアー会場では絶対に見られない・・・?! 
熱戦のあとに、子供たちと囲む食卓もまた楽し 
別れを惜しむ子供たちに見送られ・・・














