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谷口徹が地元・奈良県の母子支援施設を訪問

こうして、地元・奈良の子どもたちを訪ねるのも、今年で7年目。取り巻く現実は、もう十分に理解しているはずなのに、今年もまた改めて、谷口は胸がふさがる思いがする。

花岡陸子(みちこ)・施設長の口から語られる子どもたちの環境は、やはり壮絶なものだった。奈良市内にある佐保山荘は、何らかの事情で父親と暮らせない母と子が身を寄せる、いわばシェルター的役割で、母子支援施設への訪問は谷口もこれが初めてだった。

「今までにお邪魔したのは、子どもたちだけが暮らす施設ばかりだったから」。ここには、これまで訪れた児童養護施設とは、また別の難問が山積していた。「お母さんと一緒なら、寂しさも少ないだろうと、つい思ってしまうのだけど」。母親と一緒だからこそ、社会から孤立してしまう子どもたちも少なからずいて、それだからこそ懸命に、救いの手をさしのべる施設の方々のご苦労も、絶えない。

これも毎度のことだが、そんな子どもたちの現状を聞くとつい、子どもたちの悲壮な表情を想像してしまうのだけれど、これも毎度のことながら、いざ子どもたちの輪の中に飛び込むと、その元気とパワーには、いつも圧倒される。

腕を引っ張られ、腰を押されて、さっそく対戦とあいなったスナッグゴルフも、卓球でも、子どもたちに屈辱の敗退を喫せば、さすがのベテランも苦笑いをするしかない。

「子どもたちの声に負けないように。自分も大声を出そうとするから声が枯れるよ」とぐったりと、でもそれはとても心地の良い倦怠感には違いなく、体中が充実感で満たされる。

自分の活躍が、少なからず誰かの役に立っている。そう感じられることが、どれほど自分の心を暖かく満たしてくれるか。2006年に、女子とシニアと男子の対抗戦「日立3ツアーズ選手権」に参加したとき、難病を抱えた子どもたちと触れあう機会があった。そのとき、ふいにあふれ出した熱い思い。

「自分も子どもたちのために、何か力になれたら」。
とりわけ、地元の子どもたちの役に立ちたいと、毎年賞金の一部を出身の奈良県にある9つの児童養護施設と母子生活支援施設に寄付。オフには必ずそのうちの一施設を訪問して歩く恒例のチャリティ活動も、こうしてつかの間の“里帰り”をするたびに、ふと分からなくなる。

「いったい、どちらのためにやっているのか」。

バレンタインデーには毎年、子どもたちから食べきれないほどのチョコレートが届く。感謝や親愛の情を綴った手紙は引きも切らず、そのたびに「また子どもたちのために頑張ろう」という気持ちにさせられる。

年に一度はこうして必ず子どもたちの顔を見にくるのも、少しでも夢や希望を持つお手伝いが出来ればと思えばこそ。
だが母子支援員の松本裕梨・先生に、春の遠足は予算を奮発したおかげでことのほか楽しかったとか、谷口から贈られた寄金で購入したというパソコンが、毎日取り合いになるほどの人気だとか、また他の施設と同様に、ここ佐保山荘でも年々、谷口からの贈りものが増えていく様子を目の当たりにするにつけても、昨年は同じ40代の藤田寛之と、熾烈な賞金王争いの末に、賞金ランク2位の大活躍も改めて、頑張って良かったとつくづくと思う。

昨年は、2010年につづく大会2勝目をあげた日本プロ。今回もまた、子どもたちにお裾分けをした優勝副賞の「カップヌードル」も相変わらずの人気ぶりで、佐保山荘では先生方が、防災の一環で非常食にと子どもたちに配ったのに、その日のうちに「もう食べちゃった」と打ち明ける子が続出したと聞けば、コースでは強面の目尻も自然と下がる。

日頃の感謝と歓迎の気持ちだと、この日4月8日には、子どもたちが披露してくれた演奏会では、谷口が贈った楽器をみな見事に使いこなしていたことも、嬉しかった。
「自分がやっていることは、たいしたことではない。だけど、こうして子どもたちの喜ぶ姿を見ることが、僕のモチベーションのひとつになっているのは確かです」。

子どもたちを勇気づけるつもりが、力をもらって帰るのは、いつも自分のほうだという気がして、だからこのチャリティ活動も「どちらのためにやっているのか。いつも分からなくなる」と、谷口は笑うのだ。

今年45歳。「いつまで出来るかは分からない。でも出来る限りは続けていきたい」。オフにまた、こうして子どもたちにプレゼントを届けるために。今年もベテランは全速力で、走り続ける。幸い、オフの調整も順風満帆。先週も、宮崎で5日間ほどキャンプを張るなど、例年にない力の入れようで、次週はいよいよジャパンゴルフツアーの開幕を控えて、「今年もやるよ」と、闘志も満々。そんな確かな手応えもあって、順繰りに自分の夢を発表してくれた子どもたちに、「じゃあ、谷口プロの夢は?」と最後に聞かれてつい言った。「賞金王を狙います」。
思わず、自身3度目の王座を目指すと約束していた。
  • 社会福祉法人奈良県共同募金会の田中敏彦・常務理事(右から2番目)から感謝状が贈られた!! 花岡施設長(谷口の左隣)からも感謝の言葉が・・・
  • 子どもたちと興じた卓球は、台もラケットももちろん谷口からのプレゼント!!
  • 松本先生(左)から、どれだけ子どもたちが、谷口からの贈りものを喜び日々活用しているかを聞いてちょっぴり照れくさい・・・?!

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