Tournament article

日本プロゴルフ選手権 2009

池田勇太は「池田軍団を作ってもいいな!」

父親代わりといってもいい阿部監督(左)が耳元でなにやら…?! 池田は恩師に翌月曜日にチームの練習ラウンドに参加することを約束した
ほんとうは、地元・千葉県の千葉学芸高校を卒業すると同時にプロ入りを考えていた。母・ゆみさんと、祖父の直芳さん、祖母の正子さんに育てられ、自分も早く家計を助けたいという気持ちがあったのだ。

しかし、きゅうきょ進路を変えたのは他でもない、ゆみさんの反対があったから。母に「大学に行って欲しい」と言われ、勧められるまま仙台の強豪、東北福祉大に進んだ。
「最初は自分でも、3日で帰るだろうと思っていた」。
しかし、いま振り返れば大学生活の4年間を「一度も後悔したことはない」と、池田は言う。

ゴルフ部に入部するなり壁にぶち当たった。03年世界ジュニア制覇、同年の日本オープンローアマ。鳴り物入りで入学したが、その年ひとつもタイトルが獲れず、ふてくされた池田をいつも父親がわりに叱り飛ばしてくれたのが阿部靖彦・監督だった。
目上の人への口の聞き方も知らず、ところかまわず悪態をつく「やんちゃ坊主」を“更正”してくれたのも監督だ。

初めて池田と口をきいた人は、その言葉の荒さと態度の大きさに一瞬、眉をひそめるかもしれない。しかし、彼を良く知る人たちは「口が悪いだけで、実は人情味が厚く、まじめで素直でいい子だ」と、口をそろえる。「涙もろい」とも。
「ガラは悪いけど、愛嬌があって憎めない。彼を嫌う人は、まあいない」と言ったのは、3歳のころから池田を知っている篠崎紀夫だ。

監督が「僕がうるさく言ったおかげで、あれでもずいぶん良くなったんですよ」と笑うように、「行儀が良くなってきた」と周囲の評判が聞こえ始めたのも大学に入ってから。本人も「監督には常識から何から、1から100まで教わった」と感謝する。

エースとしてチームを背負う責任感も芽生え、大学の常勝時代をしっかりと引き継ぎ、2006年の日本学生連覇。4年でキャプテンに就任すると「言うべきことは言う。そのかわりに、やることはやる」(阿部監督)という姿勢を貫き、雑用も積極的に引き受け、まず自分から行動で示した。

「だからあいつは人望が厚いんです」と褒めた阿部監督は、この日最終日に現役部員16人を引き連れてコース入り。次週の17日から、やはり道内のオークウッドゴルフクラブで、全日本大学ゴルフ対抗戦が行われる。
練習ラウンドのために、前週から先乗りしたメンバーにはOBプロの優勝争いを見せることこそ「何よりの勉強になる」と考えた監督だったが、それこそが教え子の発奮材料となった。

「監督や後輩たちの前で、無様なショットは見せられない」。1ラウンド目の終盤あたりで合流した部員たちの姿を確認すると、ますます気合いが入った。
そして、「プロならば、みなを感動させるゴルフを見せなくてはいけない」と前夜、食事の席でとうとうと説いた阿部監督には「大丈夫だから。言いたいことは分かってるから」と、そう言い残してスタートした続く第2ラウンドで、独走態勢を築いて圧勝した。

恩人も納得のぶっちぎりVを、18番のグリーンサイドで見届けた後輩たちも感極まった。
現・キャプテンの阿部大輔くんと先代、つまり池田の後任のキャプテン安本大祐さんは、「時間の問題とは思っていたけれど、こんな大きな舞台で勝つなんて。本当に尊敬です!」。
特に安本さんはすでに大学を出て、現在プロ修業中だ。いつも後輩のことを気にかけて、卒業した今でもゴルフや私生活の相談に乗ってくれる頼れる先輩の初優勝は、何よりの励みになる。
「僕も勇太先輩について行きたい」と、声もうわずる。

最初は気のすすまなかった大学生活は、「池田勇太という人間をますます大きくしてくれた」と、本人にも実感できた4年間。優勝を決めた瞬間、なだれ込んできた後輩たち。浴びせかけられた大量の水。「胴上げだ〜!」との誰かの一声に、身長176センチの体も軽々と持ち上げられた。たくさんの手で宙を舞った。

こうして心から祝福してくれる仲間や恩師の存在こそ、学生生活で得た財産だ。

阿部監督や、歴代の先輩たちから教わったこと、その中で培われた精神を今こそ次につなげたい。
「みんなに言いたいことがある」と、優勝インタビューで池田は言った。

「ゴルフはプレーできる年齢も長い。だから大学の4年間を無駄にして欲しくない。プロになりたいと、途中でやめていく子も多いけれど、大学生活をやりきること、卒業することはとても大事なことなんだ」。

これからはそんな池田を慕い、後を追い、この世界に飛び込んでくる後輩が、ますます増えることだろう。
「やつらを集めて、そのうち池田軍団を作ってもいいけどなっ!」。
やっぱり最後は憧れのあの人を例に出しておどけた池田はもう1日このまま北海道に居残って母校の練習ラウンドに合流し、チームの士気を高める予定だ。
  • 大学の先輩・星野英正(右)や…
  • 谷原秀人(右)らも次々とお祝いににやってきて・・・。偉大な先輩プロたちの教えを後輩たちに伝えていくことが、池田の役目…!
  • 塩谷 立・文部科学大臣の手から直々に手渡された真鍮製の文部科学大臣杯に感動は倍増に…!!
  • この日は早朝5時半からのスタートに、ボランティアのみなさんには選手たち以上にご苦労があったに違いない。心をこめて感謝の言葉を

関連記事