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今年のゴルファー日本一は、プロ9年目の小田龍一

プレーオフ2ホール目にウィニングパットを決めて、分厚い胸板を反らした!!
結婚して6年目の恋女房が、あっけにとられた。優勝インタビューでマイクを向けられた夫は、当意即妙に受け答え、時にユーモアを交えながら、饒舌に語っているのを見て、さっきまで泣き腫らした目もまん丸になった。

「彼があんなに喋っているのを見るのは、酔っぱらったときか、私に何かで怒っているときくらいです」。先の20ホールの激闘を戦い抜いて、思いがけずビッグタイトルを手にした興奮が、そうさせていた。

普段は照れ屋で口べたな九州男児が、「まさか自分が勝てるなんて。しかも、日本オープンという超メジャーで初優勝できるなんて信じられない。アンビリーバブルです!」と、なぜかわざわざ英語に言い換え、早口ですっとんきょうに声を張り上げた。

無理もない。勝てそうで、ずっと勝てずにいたプロ9年目のツアー初優勝が、このゴルファー日本一決定戦。しかも、勝負はプレーオフにもつれ込み、今野康晴と、あの賞金ランク1位の石川遼を2ホールで下すというドラマチックな幕切れに、「まるで自分ではないみたいで」と、そうまくしたてた声には、自分のしでかした事の大きさへの驚愕とともに、こらえきれない喜びが溢れ出ていた。

大会主催の財団法人 日本ゴルフ協会の安西孝之会長の閉会のスピーチに耳を傾けながら、とっぷり夕暮れ時の空を見上げてしみじみ思う。
「本当に、俺が勝ったんだ……」。
この日本オープンがツアー初優勝という選手はツアー制度施行後なら、2002年のデービッド・スメイル以来7人目の快挙達成に、人知れず陶然と息を吐く。

白のポロシャツに赤パンツといういつもの勝負服で登場した石川と、図らずも真逆の赤シャツに白パンツという出で立ちで、最終日を4打差の5位からスタートした小田は、この日は出だしからショットが切れていた。
逆転Vなどてんで視野になかったとはいえ、11番からの3連続バーディでやにわに首位に立ってからというもの、それから本戦の上がり3ホールは特にプレッシャーでがちがちに。

そんな小田を支えてくれたのがこの週、バッグを担ぐ5人兄弟は5つ年下の末っ子の弟の新(しん)さんだった。
「別に、勝てなくたっていいよ」と、新さんは言ってくれた。
ゲームの途中で首位になることは、これまでにも何度もあったが、最後には「バタバタ」で、落っこちていくのが常だった。
長兄の名前がてっぺんのリーダーボードを指さしながら、「記念に写真でも撮っとくか」という弟のジョークに気持ちがほぐれた。そして、何より「曲がってもいいから。遼くんみたいに思い切り振り切ろう」と励まし続けてくれたことで、自分を見失わずに済んだ。

今季は、6月の日本プロの3位が最高で、あとはパッとしない成績が続いていた。プロ2年目はもちろん、まだシード権もなかった2002年から、2年連続のドライビング王に輝いたツアーきっての飛ばし屋は、爆発力もあるかわりに浮き沈みも激しく、先週も予選落ちするなど今年は安定感に欠けていた。
特にティショットの乱調に、「もうクラブを握りたくない」と、そう愚痴をこぼすこともあったがそんなとき、励みになったのがほかでもない、石川の活躍だった。

今季4勝をあげて、次々と世界舞台を踏んで羽ばたいていく18歳の胸のすくようなゴルフに「アニキも、曲がってもいいから遼くんみたいにやろうよ」と、明るく励ましてくれたのも新さんだった。

そして迎えたこの日本オープンは、相変わらずの難コースにもめげず、昨年の古賀ゴルフ・クラブでドライバーで攻め続けた石川のイメージで、「俺は遼くんみたいに上手くはないし、真っ直ぐには行かないけれど。どうせ曲がるんだから。俺も遼くんみたいにドライバーで行こう。出来るだけ遠くまで飛ばして近くからピンを狙おう」と、2人して徹底して攻め続けた。

その石川と初めての直接対決が今回の2ホールのプレーオフ。間近で見る18歳は、噂以上のスケールだった。その1ホール目も、石川を見習った。奧のラフから大きく行きすぎた5メートルのパーパットも「遼くんなら絶対に入れてくる」と、執念でねじ込んだ。

「遼くんに負けないように。俺もやるぞ」と、ますます気合いが入った2ホール目のティショットは「今日一番、振れていた」と、兄を追いかけツアープレーヤーを目指して修業中の新さんも、納得の一打。さらに、8番アイアンを握った176ヤードの第2打は、石川のさらに内側につける2メートルは、下りのフックライン。
これが、人生初のウィニングパットになった。

これで5年シードを手に入れて、おそらくは来年の全英オープンで初のメジャー舞台も踏めるだろう。しかし、そんな事実はまったく頭になかった32歳は絶句した。
「本当ですか。へぇ、いや、そうなんですか…」と、滑舌の良かった堂々の優勝スピーチがウソのよう。身長180センチの体を小さく縮めて口ごもり、あげくの果てに「自信ないです」。
時間がたって、激戦の興奮が冷めてきたところへ、改めて事の大きさを突きつけられて今度は不安になってきた。「僕が日本オープンに勝てるなんて。もってのほかです。まさかしかないですよ」と、この期に及んでまだ繰り返した。

だが、みんなのヒーローを倒して頂点に立ったからには尻込みなんてしていられない。
「僕も、遼くんと一緒にツアーを盛り上げていきます」と、スタンドを埋め尽くした1万7687人の大ギャラリーの前で誓った男に二言はない。
  • やはりプロを目指す5番目の弟に、長兄の威厳を示したツアー初V
  • ひとまわり以上も年下の石川遼をお手本に、勝ち取った大きな1勝でもあった
  • 身長180センチに体重90キロの体には、JGAの安西会長に着せかけられたチャンピオンブレザーもちょっぴり窮屈?!
  • 大会を支えてくださったボランティアのみなさんにも感謝の言葉を(右は、ローウェストアマチュア賞獲得の藤本くん)

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