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キヤノンオープン 2008

藤田寛之が単独首位

本人曰く、「アプローチとパターは良いものを持っているんです。ただ僕の場合はそこにショットが噛み合わなくて・・・」。
常に完璧を求める選手は、だからどんなに好スコアを出しても満足できない。たとえ首位に立ってもこれまでは、「自信がない」と繰り返すばかりだったが、この日の藤田はいつもと違った。

「ショットが切れてくると、前向きになれるし強気になれる。今日は凄く充実したラウンドでした」。
ボギーなしの66をマークして、久しぶりに明るい言葉がこぼれ出たのは芹澤信雄のおかげだ。

絶大な信頼を寄せる師匠が持病の左肩の手術に踏み切ったのは、昨年の12月。
今年8月の復帰から4戦目の今大会で、復帰後初の決勝ラウンドに進出した。
前日2日目。ホールアウト後の練習場は「さすがに久々の予選通過で、とても気持ち良さそうにクラブを振っているなあ」。

そう思いながら、背後の打席に陣取って自分も練習を始めたら、次第にイメージが良くなっていったという。

「芹澤さんのクラブの入り方や球の捕え方。テイクバックをあげて、ダウンスイングの間だとか右サイドの壁の作り方・・・。見て学ぶじゃないですけど」。
その1球1球を参考にしながら練習したら、「自分のスイングも明らかに変わった」という。
「芹澤さんがフェードを打てば、僕もフェードを。ドローを打てば、僕もドローを」。
師匠になりきってボールを打つたびに、ますます理想のスイングに近づいていった。

思い起こせば97年のツアー初優勝(サントリーオープン)も、その前日にたまたま芹澤の後ろで練習を重ねてイメージが良くなった。
どんな言葉よりも雄弁なお手本を、再びその体にしみこませて単独首位に立った。

5月のパインバレー北京オープン以来の今季2勝目のチャンス。
目下の目標である年間2勝を目前に「このままの勢いで最終日もラウンド出来たら勝てると思いますけれど・・・」。
ゴルフの難しさは1ラウンドごとに、一晩挟むことだ。

「いったん間が空いたらどうなるか・・・。でもそれはもう、十数年経験してきたことですし、このあとまた明日までに、自分の中に師匠のフィーリングを覚え込ませておきます」。
共同会見に答えたあと、足早に練習場に直行した。
藤田より1時間ほど前に、ホールアウトした芹澤がまだ練習場にいてくれることを願いながら。

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